制約を「システム」と捉えてみよう
制約がクリエイティビティを育むこともあるかもしれませんが、長期的な視点を忘れずに管理することが重要です。
「制約がクリエイティビティを育む」という言葉があります。制約があるからこそ創造性が発揮される、もっともらしい主張です。しかし、デジタルプロダクトの開発において、この考えを実践するのは簡単ではありません。制約は成長を続けるデジタルプロダクトと切り離せない関係にあります。制約を回避するために「創造的な解決策」を考案することは可能です。しかし、その解決策がシステム全体に波及効果を及ぼすことは少なくありません。今日の制約を巧みに回避するための方法が、明日には新たな負債となる可能性も十分にあります。
制約に対応するために生み出された創造的な解決策が、将来的には革新を妨げる重荷となることがあります。こうした事例は、ナビゲーションシステムやデータ可視化インターフェースなど、デジタルプロダクトデザインのさまざまな側面で見られます。また、制約の背景には、技術やコストだけでなく、既得権益や組織内の政治的力学や、単純な変化への抵抗がある場合もあります。こうした要因を、クリエイティビティだけで乗り越えるのは容易ではありません。
制約の中でブレインストーミングを行うと、短期的な視点に偏りがちです。制約という言葉は、境界線や制限を連想させやすいですが、私は制約を「システム」として捉えるようにしています。制約を構成する要素を深く理解することで、改めてどのようなアプローチを取るべきかを考えやすくなります。例えば、下記のような4つの制約は、それぞれアプローチが変わります。
- 基盤的制約:セキュリティ要件やパフォーマンスニーズなど、プロダクトの根幹を形成します。これらは、過度に制限的にならないよう、綿密な文書化と定期的な検証が求められます。
- 規制上の制約:法的要件とコンプライアンスから生じます。外部要因により変化することが多いため、新たな要件に柔軟に対応できるシステム設計が必要です。
- 技術的制約:技術選択と蓄積された技術負債(ときにはデザイン負債も含む)から発生します。技術の進化とプロダクトニーズの変化に応じて、定期的な再評価が不可欠です。
- ビジネス制約:リソースの制限や戦略的優先順位など、組織の現状を反映します。コミュニケーションを密に行わないと、長期的に深刻な影響をもたらす可能性があります。
制約を受け入れるか異議を唱えるかの判断前に、体系的な評価が必要です。そのため、制約の詳細を洗い出したり、制約同士の関係性を視覚化することもあります。例えば、以下のような項目を表に書き出すことで、制約の全体像が明確になります。
- 制約の種類
- 制約が影響を与える領域
- 制約の発生要因
- 制約の『オーナー / 責任部署』
- 制約がもたらす短期的・長期的な影響
- 最後の制約をレビューしたタイミング
制約が完全になくなることはなく、常に存在し続けます。制約がクリエイティビティを育むこともあるかもしれませんが、長期的な視点を忘れずに管理することが重要です。制約は静的なものではなく、時間の経過とともに変化していきます。新しい機能を開発することで、新たな制約が生まれる一方で、古い制約がそれほど問題ではなくなることもあります。もしかすると、クリエイティビティを発揮する最善の方法は、制約そのものの境界線を理解することではなく、制約を取り巻く要素を正確に理解しようと努めることなのかもしれません。