なぜダメなデザインが生まれるのか
今の時代は「良い見た目」という皮を被った嘘を簡単に作ることができる世の中です。それをデザイナー視点の直向きなモノ作りの姿勢だけでは突破ができないと思います。
ますます力を増すダークパターン
ユーザーが思いもしなかった操作をさせて、会員登録、購入、サイト流入をさせるテクニックを「ダークパターン(Dark Patterns) / Dark UX」と呼ぶことがあります。サイトへアクセスしたら問答無用にモーダル UI を出すのは初歩と言っても良いくらい。中には行動心理や知覚をうまく利用したダークパターンもあります。
Twitter のハッシュタグ「#darkpatterns」で数多くの事例を見ることができるので、こちらも注目。
集中力が低くなった今日のユーザーは、即座に判断して行動をする傾向があります。これ自体悪いことではないですし、デザインの力が試される部分ではありますが、下記のような手法で悪用されることもあります。
- 情報をわざと見えにくくする
- ベストプラクティスを逆手にとる
- 罪悪感を促す
- 偽 X を設置する
- 嘘をつく
ダークパターンは聞いたコトがない怪しいサービスだけがしているのではなく、Facebook や Amazon といった誰もが知っている大企業でも実践されていることがあります。
正義を振りかざすのは容易
Web やアプリをビジネスの柱としているビジネスだと、売上、ページビュー、コンバージョン率、滞在時間などの指標を意識しています。これらは品質を評価する上でも重要になるとはいえ、ビジネス指標を追うことだけが目的になるとダークパターンになりがちです。目標に掲げらている指標が自分の評価に直結していると、別の側面で考える機会を作るのが難しくなります。
作った人が悪い。指示した人が悪い。倫理観がないと批判するのは簡単です。ひとりのデザイナーとして「こんなデザインを作るなんて何を考えているんだ。ありえない」と言うことはできるでしょう。しかし、それをしなければ食べていけなくなるとしたら作ることを選ぶ人もいるはずです。
デザイナーが「それは間違っている」と言える立場にいない可能性もあります。声をあげると職を失う可能性があったとしたら黙っていたほうが楽と考えるかもしれません。誰も声を上げないなか、自分から先陣をきって一歩前へ進む人がどれくらいいるでしょうか。
デザイナーの仕事とは
デザイナーの仕事は、与えられた課題に対して整理したり見た目を良くすることと捉えるのであれば、ダークパターンでも見た目を良くする仕事を全うしていると捉える人はいるかもしれません。
ただ、中にはパッと見は素敵でもダークパターンになるものはたくさんあります。むしろ見た目が良いせいで「これは良いかも」「信頼できる」という気持ちを助長させている場合もあります。そう、デザインは嘘をつけるわけです。
素敵なイラストで雰囲気を和らげていますが、「失敗したほうがマシ」というラベルを付けて離脱させないようにしている画面。
デザインは「課題解決」と説明されることがあります。「ユーザーの課題を解決する」という言葉自体はカッコ良いですし、意義のあることですが、直向きにモノ作りをしていれば実現するものではありません。
デザインに限ったことではないですが、私たちが見ている成果物は様々な要素の複合体と言えます。例えば以下のような項目があります。
- ビジョン / ミッション
- ビジネス戦略
- ユーザー価値
- 制約(予算や時間など)
- プロダクト / サービスの評価
- 関わっている人たちの評価
デザインの品質もこれらの要素にどれだけ関われるかにかかってきます。ただ、これらを横断的に見ている人が少なかったり、決まったことを組織へ浸透させる活動をしている人がいない場合があります。こうした『誰もが課題意識をもっているけど、誰もやっていない領域』はどの組織も存在していて、ここにどう取り組めるかが良いデザインになるかならないかの別れ道ではないかと思っています。
組織のあり方や文化の課題に取り組まなければ、いくらデザインツール上でテクニックを駆使しても頭打ちをしてしまいます。本当の課題解決は、ここまで踏み込まなければダークパターンも消えることはないと思います。
では、デザイナーがそこまでやるべきなのかと問われると答えにくいところです。幸い、デザイン思考や UX デザインプロセスなど、長年培われたノウハウをつかって課題発見と解決に取り組むことはできます。デザイナーがもつ能力が向いていると思うと同時に、作りたい、作ることで評価されている方には遠すぎる存在です。
デザインができること
良いデザイン、ダメなデザインの評価が表層的な見た目だけになることがよくあります。もちろん、そこは評価をする上でとても重要な部分ですが、今の時代は「良い見た目」という皮を被った嘘を簡単に作ることができる世の中です。それをデザイナー視点の直向きなモノ作りの姿勢だけでは突破ができないと思います。
仕事の背景は様々ですし、課題解決という言葉をどう捉えるかは人それぞれです。しかし、ダメなデザインが世に出てユーザーに負担をかけてしまうという課題を解決するための働きかけをするデザイナーも増えて欲しいという想いもあります。作る時間を削ってでもこうした課題に取り組まなければ、ますますダメなデザインが増えていくことになります。
ユーザーを守るのはとてもタフで難しい仕事ですし、一見デザイナーの仕事には見えないかもしれません。無難な見た目であれば、人の力を借りずに作れてしまう今だからこそ、デザイナーはより課題へ踏み込んだ活動も必要だと思う今日この頃です。