あなたの組織でデザイン指標が使えない理由とその対策
物事を判断したり評価したりするための目じるしとして指標があります。判断と評価の主軸が「売上に貢献したか」だと、ユーザー体験の向上は少し遠い存在になります。
デザイン指標を作っても失敗するパターン
プロダクトを通してユーザーに価値提供できたか評価するためにデザイン指標は欠かせない存在です。書籍を読むなどして学習すれば指標は作れるようになりますが、その指標を使って Web サイトやアプリなどのデジタルプロダクトを評価し、改善するような体制を作るのは簡単なことではありません。
そもそもユーザーに価値提供できているかを評価することが、プロダクトに携わるデザイナーや開発者の評価に結び付いていない場合があります。現場では「ユーザーに価値提供したい」という気持ちで仕事をしていたとしても、自身とプロダクトの評価と結び付いていなければ、ただ指標を計測しているだけになります。
デザイン指標との相性が良くないのは、プロダクトを作る人たちの評価が売上目標に直結している組織です。
そういう組織では、ユーザーの課題解決ではなく、いかに売りやすくするかを優先しがちです。特に営業の力なしにプロダクトを売るのが困難な場合がある BtoB プロダクトだと、「〇〇がないと売れない」といった要望に応えるケースが増えてきます。足りない機能を実装することがプロダクトの価値向上に繋がる場合はありますが、起案者がユーザーの根本的な課題に対する洞察力がないとうまくいきません。
toC でもページビューやコンバージョン率といった売上と直結する KPI しか立てられていない状態だと、ユーザーの課題解決を基にした施策の優先順位は低くなります。
デザイナーであれば、オンボーディング体験を良くしたいなどアイデアはたくさんあると思います。しかし、すべての判断基準が売上と結びつけなければいけない環境だと、オンボーディング改善は後回しになります。
一方、売上に貢献するのであれば、ダークパターンを使ったデザインでも組織内では高い評価を得られることなります。
価値提供のための戦略立てから
物事を判断したり評価したりするための目じるしとして指標があります。判断と評価の主軸が「売上に貢献したか」だと、ユーザー体験の向上は少し遠い存在になります。
売上ではなく、プロダクトの価値を評価の軸に置いた組織はデザイン指標は作りやすいです。フリーミアムを提供する SaaS(Software as a service)だとプロダクトの価値を評価の主軸に置く組織が多いです。
プロダクトの価値を主軸においた組織として例に出されることが多いのが Zoom です。Zoom は、最大 100 人のビデオ会議ができるだけでなく、40 分以内であれば何回ビデオ会議をしても無料です。
有料にしないと使えない機能はありますが、無料で「ビデオ会議の価値」を体感するには十分な機能が提供されています。もし実施できる会議数に制限があったり、画質・音質が低かったらビデオ会議の価値を実感して有料転換してくれないかもしれません。
Zoom をはじめとしたプロダクトの価値を主軸においた組織だと、価値の本質を追求しやすくなるだけでなく、有料転換までのカスタマージャーニーに基づいた施策も考えやすくなります。単なる『あるべき論』ではなく、プロダクトの価値を良くすることが自身の評価に結びつくわけです。
開発メンバーだけでなく、営業やカスタマーサクセスのメンバーもカスタマージャーニーへの深い理解と共有が欠かせなくなります。その中にある様々な壁(不便)をなくすことがデザイナーと開発の役割になりますし、ビジネスサイドはお客様からより深いインサイトを得るための重要な窓口になります。
こうした環境は売上ではなく、チャーンレート(Churn Rate)が部署を超えた共通言語になるでしょう。解約しない、諦めないために何ができるのか考えるのがデザイナーの役割のひとつになるはずです。
指標をボトムアップで考えても、プロダクトだけでなく自分自身の評価に繋がらない場合があります。指標を考える前に、プロダクト戦略から見直して、そこからどんな指標が設定できるか考えたほうが使える指標になります。
プロダクトの価値を主軸にした場合に、以下のような質問に答えられる必要があります。
- プロダクトの価値によるユーザーアウトカムは何?
- 価値を見出すための重要なアクションは何?
- ユーザーはどういうジャーニーを辿って価値を体感する?
- ジャーニーはどれくらい時間をかけて体感するもの?
こうしたプロダクトオーナー(又はプロダクトマネージャー)が考えなくていけない部分が欠けている状態だとデザイン指標を使った評価・改善は難しくなります。デザイナーから出来ることは少ないかもしれませんが、プロダクトマネージャーが考えていることを視覚化したり、各部署の施策をカスタマージャーニーにプロットして全体像を見せるなど課題提示できることは幾つかあると思います。
自分たちが正しいと思っていることを一生懸命作れば評価されるのかいうと、そんなことはありません。組織の評価に結びつかなければ「デザイナーの仕事ってビジネスに貢献している」と思われない状態が続いてしまいます。
そうした状態を打破するには、評価の仕方をデザインするという視座をもって他部署に働きかける必要がでてきます。評価の仕方が変わるとデザイン指標も説明なしでスッと入ってくると思いますし、『デザイン』というフレーズを付けることもなくなるはずです。