デザイン指標から価値を伝えてみよう

デザイン指標のようなユーザーへ価値提供できたかを測る目印を設定することで、デザインを課題解決のための施策と受け入れてもらえるのではないかと考えています。

デザイン指標から価値を伝えてみよう

価値の説明が下手なデザイナー

IBM の社長だったトーマス・J・ワトソン・ジュニアが「良いデザインは良いビジネスである」と言ったのが 1973 年。最近だと Design in Tech Report 2017 (PDF) のなかで、 デザインは見た目の美しさだけでなく市場に合うものを作り成果を出すものとし、ビジネスと密接な関係にあるものとしています。今も昔もデザインはビジネスにおいて重要なポジションにあるべきだと言われていますが、未だにあちこちで『説明・説得』があるということは、うまく伝わっていないのかもしれません。

私は価値が伝わりにくいというより、価値の伝え方が上手くないではと考えています。ここで言う「伝える」とは、ただ言葉にするだけでなく体系化も含まれています。

プロセスと価値が結びついていない

UX やデザイン思考のような言葉がビジネスシーンでも流行したことで、見た目が良いものを作るだけがデザインではないことは認知されたと思います。プロセスがフレームワーク化されたことで、チームでデザインについて考えやすくなりました。

しかし、良くも悪くもプロセスであり手段であることから、具体的な成果物を作り上げるには不十分です。また、盲目的に手段だけ取り入れることで「そもそも何でやっているの?」という疑問も浮かび上がります。プロセスや手法を重視するあまり、ビジネスへの貢献が後回しになることもあります。

超可視化と機械化の躍進

Web やアプリのようなデジタルプロダクトは従来のデザインに比べてユーザーの反応が見やすいのが特徴です。ユーザーのプロフィールや行動パターンがすべてデータとして取得できるだけでなく、ほぼリアルタイムで作った成果物の結果を見ることができます。デザイナーというひとりの専門家の判断で決めるのではなく、とりあえず世に出して結果を見て調整するという運用も増えています。また、今だと人工知能の力を借りて、数多くのバリーエーションの中から最適解を導き出せるようにもなっています。

可視化されることでビジネスへ貢献していることが説明しやすくなるものの、ビジネス文脈の数値を上げることがデザインの仕事になってしまう場合あります。例えば広告収入を得るためにページビューを増やすというビジネスの目標に貢献するためだけのデザインを作ってしまうことがあります。ユーザーの操作を邪魔をしたり騙したりするダークパターンが生まれるのも、ただビジネス指標を上げることを目的としているからでしょう。

デザイン指標から始める対話

デザインにはニュアンスや感情で表現するものもあります。そういう言葉にしにくいものが価値を生み出すこともたくさんあります。しかし、ビジネス文脈で提案するときにニュアンスや感情だけでは通じないですし、計測・評価するための指標がなければ価値提供しているのかさえ分かりません。

指標を作るのは簡単ではありませんが、感覚的な表現だけに留まっていると「アーティスト」みたいな見当違いがラベルが付いてしまいますし、いつの間にかビジネス指標を上げるための作業者になってしまいます。

ビジネスと利用者のゴールを結びつける
同じ方向を向いていても達成のためのアプローチが異なります。

結果的にビジネス指標への貢献になりますが、ユーザーに価値提供しているかを計測するデザイン指標を設定する必要があります。デザイン指標は以下の 4 考慮して作ります。

  • ビジネスゴールはユーザーが何をすることで生まれるか?
  • 価値に繋がる行動は何か?
  • 感情は何によって生まれるか?
  • 行動や感情が生まれる理想的な遷移は?
指標の解像度を上げる

ページビューが目標になると、ユーザーへの価値を提供することより数字をどう上げるかという議論になりがちです。代わりに「最訪問者が記事を最後まで読む割合を増やす」という目標であれば、トップページの記事の見せ方は最適なのか? コンテンツフローは適切なのか?といったデザインの提案が考えやすくなります。指標に基づいてデザイン批評もできるはずです。

Lean Analytics」はデザイン指標を考えるための強力なツールになるはずです。前半はスタートアップ向けのコンテンツですが、後半はEコマースやメディアサイトなどタイプ別に解説されているので参考になります。

まとめ

デザイナーはビジネスという土俵に上がるべき。
ビジネス目線でデザインを提案すべきという論調があります。
「良いデザインは良いビジネスである」であることを証明するためにビジネスに貢献するための価値提供が必要ですが、それはビジネスサイドの方達と同じ視点でビジネス指標を上げることではないと思います。

ユーザーへ価値を提供することがデザイナーのミッションであるなら、彼らを守るための働きかけも必要です。ビジネス指標はユーザーに価値を提供したことの結果ですから、デザイナーはユーザーに近い立場からどう貢献できるかを提案すべきですし、時には戦わなければならないこともあるでしょう。双方の視点を合わせたときに、今できる最適解が見つかると思っています … ただ、今はデザイン側からの提案が少ないと感じています。

価値とは成果があってのことだと思います。様々なデータが可視化され、それなりのものであればツールを使って数時間で作れてしまう時代です。そうしたなか、デザイナーが良い成果物を作り切ったというだけでは価値に繋がらない場合がでてきました。デザイン指標のようなユーザーへ価値提供できたかを測る目印を設定することで、デザインを課題解決のための施策と受け入れてもらえるのではないかと考えています。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。