作りたいものを作るのがデザイナーの仕事ではない

俺たちが作りたい凄いモノを作るとう姿勢は、ユーザー視点が抜け落ちているだけでなく、自分たちが作り出す『凄いモノ』によって人の生活や考え方がどう変わるのかという想像力が欠落しています。

Trying to make cool shit

We’re just like five guys hanging out in a house, trying to make cool shit. (俺らは 5 人でスゲエもの創りしてるんだ)

海外テレビドラマ「シリコンバレー」に出てくる言葉。シリコンバレーを舞台に新しい技術の開発と新興企業の立ち上げに奮闘するという内容ですが、ジャンルはコメディ。しかも、今のテックカルチャーを風刺したシーンが満載で業界の片隅にいる自分としては笑えるようで笑えない何とも言い難いところがあります(とか言って全シーズン見ましたが)。

引用は主人公のリチャードではなく、相棒(?)のアーリックの言葉ですが、全編に「俺たちが作りたいモノを作るんだ」というメッセージが伝わってきます。こうした姿勢は、モノ創りをしている人であれば共感すると思います。ただ、こうした作り手を中心に置いたモノ創りが今のシリコンバレーを作り出しているといっても過言ではありません。

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界 」のような書籍をはじめ、シリコンバレー企業や文化に疑問視する声が増えてきています。

以下のような課題があると言われており、変えていくための取り組みもここ 1, 2 年で活発になってきているように見えます。

  • 白人男性中心による偏った視点
  • VCからの強いプレッシャーで鬱になる起業家の続出
  • 巨額買収がゴールになってしまった風潮
  • ビジネスを急成長させるためにダークパターンの実装

こうしたシリコンバレーの文化の根底には「俺たちが作りたい凄いモノを作る」という姿勢があるのではと思っています。ユーザー視点が抜け落ちているだけでなく、自分たちが作り出す『凄いモノ』によって人の生活や考え方がどう変わるのかという想像力が欠落しています。これは遠い海の向こうの話というわけではなく、日本でも似たようなことが起こっています(東京中心設計は深刻な問題だと思っています)。

モノを創るのは楽しいですし、自分が思い描いているモノを形にしたいという欲求はあります。だからデザイナーやっているという側面があるものの、その姿勢で本当に作り続けて良いのかと思うことがあります。20年前は web はマイノリティでごく一部の人しか使っていませんでしたが、今は違います。作りたいものをただ作る場としては成熟し過ぎていると思いますし、影響力も大きいです。

ユーザーのために作るべきである … というのは頭で分かっていますし、今のデザインにおいて欠かせない視点です。しかし、これがモノ創りの欲求によって薄まってしまうことがあるだけでなく、シリコンバレーのような風潮・文化によってかき消される場合もあります。そういう今だからこそ、なぜ作るのかという問いは仕事をしていく上で重要だと思っています。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。