第二回Book Clubで議論された体験とデザイン
今夏から始めているAutomagic Book Club。第二回は「Subject To Change ―予測不可能な世界で最高の製品とサービスを作る (#abk2)」を課題図書として取り上げました。第一回は私のほうで決めた書籍でしたが、今回は幾つかの書籍から投票で決めました。私自身、この書籍は原書が出た 2008 年当時に既に読んでおり、レビューが掲載されています。今回は和訳を読みましたが、当時感じたことと比較したり、今という時代と比べて UX やアジャイル開発の考え方がどう変わったのかを考えるのに楽しいプロセスになりました。
今回も Twitter と Tumblr を中心に感想や意見のやりとりを行いました。前回に比べると発言数は少なかったものの、自分なりの意見や疑問を投げかけている人が多かった印象がありました。 Twitter 上でのやりとりは、Togetter のほうでまとまっているので、書籍を読もうと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
変わりゆく体験とそれに応える開発と
3年前の書籍ですが、全体的なテーマは今に通じるものがありますし、むしろ今議論として熱くなっている部分もあります。スタートアップや Web アプリケーションを開発している人々の間ではアジャイルで小さな改善を繰り返すためのプロセスが確立されつつあります。特に今はソーシャルメディアという利用者と透明化した関係を築きやすくなったという意味では、当時より改善のプロセスが導入しやすくなったといえます。
しかし未だに従来の開発サイクルから抜けきれないシーンも見かけます。柔軟な動きに対応できるはずの Web ですら、1,2年に一度のリニューアルという形でしか予算が確保できなかったり、担当者が変わることで過去の経験(失敗)を活かせないという場合があります。
そこで、本書では「体験」という言葉をキーワードにしてアジャイル開発の重要性を訴えようとしたわけですが、この「体験」という言葉そのものへの疑問や感想を述べている方がたくさんいました。
使い手の第一印象を左右し、また繰り返し使う部分なのでUIはとても大切な要素ですが、それを通して商品やサービスでどんな体験を提供できるかを作り手側が議論できていないのが課題だと感じています。
from: RottoWatt
個人的には人は好きなものに対しての障壁を軽く乗り越える情熱と学習能力があると思っています。ユーザーは、好きなもの興味のあるものは学習コストなんか気にしない。ここでJJGが言っている「デザイン志向」は後付けの理屈にしか思えない。
from: threepennie
本書では「体験こそ製品だ」と高らかと宣言したが、体験もいずれはスペックと化して表現してしまう可能性はあると思う。類似製品の異なる体験をどう比較するか、体験が優れているという主観をどう他人(顧客)に伝えるのか。
from: first_torrent
本書では「体験こそ製品だ」と高らかと宣言したが、体験もいずれはスペックと化して表現してしまう可能性はあると思う。類似製品の異なる体験をどう比較するか、体験が優れているという主観をどう他人(顧客)に伝えるのか。
from: yhassy
9月の下旬に行われた .NET中心会議 では、UX には「心理 ・思考・環境」「社会・コミュニティ」という新しいレイヤーも必要としているのではないかという話をしましたが、本書でもエスノグラフィという観点から同じようなレイヤーの必要性を提案しています。人の声(フィードバックやニーズ)をどう受け止めるのか、というデザイナーとしての葛藤を取り上げていましたが、分かってはいてもどのように実践すれば良いのかという部分で頭を悩ませている方も多いかと思います。
ユーザビリティテストですらコストがかかるのに、そこに文化・感情をプラスして恣意的でないテストを行うのってどれくらいコスト増すのか。で、国内のメーカーやIT企業でそれ請け負う余裕があるのはどれほどあるのか。なかなか計量化されたかたちで実業に落ちてこない。
from: ykob
ユーザーが多数意見と宣伝文句という卓越風によってあっちこっちへと流される従順でのろまなヒツジであった時代は終わったかのような風潮がネット界隈ではありますが、二極分化しているだけでそうではない少数と、昔より従順な多数の「ヒツジ+」に別れたのではという気がします。
from: taz8
自分たちのビジネスを存続させてくれる顧客をどう言う対象として見ているか、何が欠けているかを確認するツールに使えそうな第3章(またか!)。どのモデルとして捉えているか理解する事で、落とし穴にハマるのを防いだり、どう次のレベルに発展させて行けば良いか考えるのに良いかも
from: shiromomo
アジャイル開発で重要になるスピード感。スピーディに進めるためにプロトタイピングを作り続けたり、リリースサイクルをはやめることで、より多くの人が見て触れる環境を作り出すことが重要であると本書でいわれています。改善を進めていくには議論・批評は避けて通れませんが、そこで必要になるのがリーダーシップとデザインへの明確なビジョンになります。過去の経験からこの辺に関して意見を出している方もいました。
アイデアが形になってきたときに検証した結果、それを作り直さないと行けない場合、ある意味ちゃぶ台返しになるわけだから、その決断を下す人は良い製品・サービスを作るために憎まれ役にならないといけないのではないかと。ズバズバ言えない日本人には難しいスキルな気がする。
from: yokozunat
プロトタイピングがもてはやされるようになって久しい。けれども、ぶれないコンセプトを持っていても、機能てんこ盛り製品デザインになる崖っぷちの状態を歩き続ける。なにより大事なのは作りなおす覚悟とモチベーションを維持するプロセス。
from: calmtech
今回の課題図書は様々な気付きや解決の糸口を提示してくれたと同時に、いろいろな疑問も生まれました。参加者はそれぞれの時間とスピードで進めていることもあり、議論になるということはほとんどありませんでしたが、漠然に抱いている疑問を発することで リツイートされたり、参加者以外の方が返答していたりと拡散している場合もありました。書籍は明確な答えや方法を求めるためにあるだけでなく、プロセスを楽しむという側面もあります。今回は、それぞれの意見や疑問を投げ続けながら、その疑問に対して自分はどう解釈するのかというプロセスが楽しめる書籍だったと思います。