よりよいコンテンツ開発と環境つくりの関係
先月ひっそりと実装された、新しい機能「読むモード」。このサイトの読書体験を毎回新鮮なものにしたいという思いから様々なレイアウトで提供しているものの、人によってはシンプルに読みたいという方もいます。そういった方に向けてナビゲーション要素や独自のレイアウトを一切省いて読むことを可能にするのが「読むモード」です。RSSを購読してもらえれば、同等のシンプルな見た目で読むことは出来ますが、わざわざ購読はしたくないけどシンプルにさっと読みたいという方には最適な機能だと思います。
記事ページのリニューアル以来、どれくらいの方が下のほうまでスクロールしているのかをモニタリングしていますが、およそ8割の方が記事下までスクロールしています。今のところ読むモードにするとトラッキングの JavaScript も Off になってしまいます。それゆえ読むモードによって最後まで読む方が増えたかどうかというのは検証しにくいですが、設置後の滞在時間が若干減ったことを考えるとすぐに読み終えている方が増えているという可能性もあります。ただこのあたりは1ヶ月では検証しにくい部分もあるので、もう少し見て行く必要はあるでしょう。
読むモードは Readability という Bookmarklet を参考に使っていますが、これは最近登場した Safari 5 のリーダー機能も採用しています。私のサイトはシンプルですし汎用性を必要としないので簡単ですが、Readability のほうはコンテンツだと考えられるエリアに対してスコア付けをし、高いものを表示させるという高度な機能を備えています。
同様にシンプルに読めるサービスとして Instapaper も挙げられますね。従来、シンプルに情報を読むには RSS リーダーしかなかったわけですが、他にも様々な方法が生まれて来ていますし、Safari のようにブラウザの機能の一部として実装しているケースも出てきました。
シンプル化で個性はなくなる?
RSSリーダーが登場した頃から言われてることですが、純粋にコンテンツだけを表示させるということへの懸念もあります。デザイナー/制作者や情報配信者が意図していた見せ方を一切無視して情報が読者に届けられることに違和感を感じる方もいるかと思います。まったく同じ見た目の情報が並列に並び、インターネットが単なる読むためのプラットフォームになってしまうのでしょうか。確かにそういった捉え方は出来なくはないですが、 じっくり読ませる・見させるための機能を実装することはマーケティング / ブランドに影響を与えるのではなかと考えています。
見た目だけを個性と呼ぶのであれば、確かに近年の傾向はおもしろくないかもしれません。しかし、読者がサイトに訪れた意図と合わない情報を省いて表示させることを一種のサービスと考えるとどうでしょう。読者が「ちゃんと読みたい」という欲求に応えることでサイトへの満足度は上がるでしょうし、また訪問したいと思わせるきっかけになかもしれません。余計な要素がなくなることで、コンテンツがさらに引き立つ可能性もあります。
過剰なナビゲーション、選択肢があまりにも多いリンクリスト、動きが多くて読む邪魔になる広告。こうした様々な要素はページビューを増やすことによる収益増加というビジネスモデルとの関わりがあります。しかし、それが同時に読者にとって不快な(又は混乱を招く)環境を提供している可能性があるわけです。人が訪れなくなる(読まなくなる)サイトになってしまうことのほうが「個性を失う」といっても良いかもしれません。
利用者に主導権があることを前提とした広告
Webで広告を見せる前に必要なことという記事で、利用者は主導権が自分にあるということを感覚的に理解しているということを書きました。自分でコントロールがきかないことに対する拒絶反応は上級ユーザーになればなるほど高いものへとなるでしょう。あまりネットを使わない人はどうかと考えるかはいるかもしれませんが、Safari の例のようにブラウザで実装されていればどうでしょう。広告やナビゲーションが盛りだくさんのサイトもモバイル版だときれいで読みやすいという体験を何処かでしたら考えが変わるかもしれません。読みやすいサイトが増えてくると、読み難いサイトへのストレスが出てくるかもしれません。
個人サイトであれば大した問題ではありませんが、ページビューやクリック数が収益モデルのサイトでだと悩ましい問題です。利用者にとって邪魔な存在になりうると書いた過剰なナビゲーションや、あちこちに貼ってあるハイパーリンクもなくなってしまえばページビューは下がってしまう可能性が高いです。広告とは別の収益モデルは幾つか出て来ているとはいえ、今現在広告に頼っている状態では悩ましい問題といえるでしょう。
「古い」「機能しない」と言われ早数年経つ Web の広告モデルですが、まだその代替になるようなもの、バージョンアップしたものが採用されているというケースは少ないです。シンプルにしてしまうことで1セッションあたりのページ数を増やすのが難しくなりますが、ひとりあたりが一定期間で訪問するページ数を増やす可能性も考えられます。それをどう換算するかが課題ですね。
クリック数やページビューは機能していないとはいえ、換算の仕方がシンプルというのがひとつの強みでしょう。しかし「簡単に測定出来る」というのが理由で重要なことに目を向けていないのも事実です。それぞれの業種によって価値の見方も違えば、顧客との関係作りも異なります。それゆえ、測定方法もその違いに合わせる必要があるでしょう。今は「Web」というあまりにも大きな共通項で測定方法を見ているのでマッチしない場合があるのだと思います。
コンテンツの価値とは
良いコンテンツを開発する、読みやすくように編集、コンテンツを選別するといったことはもちろん重要です。しかし、それだけであれば以前からやってきたことです。今後も良いコンテンツをつくっていくことは重要ですが、それだけでなく読者にとっての「よい環境」を提供することがさらに注目されていくでしょう。「読むモード」をはじめとしたコンテンツを引き立てる機能も「よい環境つくり」のアプリーチのひとつです。また、次々と登場している雑誌の iPad アプリもその傾向といえるでしょう。
環境の改善を追求することで新たなビジネスモデルの開拓にも繋がるかもしれません。Web体験・コンテンツ体験における良い環境とは他にどんなものがあるでしょうか。探して行きたいですね。