今CMSで本当に必要とされているもの

コンテンツのマルチデバイス対応のため、パソコン中心の CMS 管理と制作から、一歩でも抜け出さなければならなくなりました。今 CMS で必要とされているのは、真新しい機能ではなく、作り方や考え方のバージョンアップです。

今の CMS の現実

ここ数年で、CMSは劇的に変化しています。

マイクロCMS が注目を集めているのは、その兆候のひとつですが、こうした変化の要因は、従来の CMS では今の利用者に届ける仕組みを作るのが困難だからです。自分の好きなデバイスでアクセスする利用者。より柔軟な表現。どのサービスを経由してアクセスされるか分からない情報経路の複雑化。WordPress, Drupal, Movable Type をはじめ、5 年以上経っている CMS の多くは、パソコン向けの『ページ』や構造に最適化された設計になっていることから、今後登場するかもしれない未知のデバイスやサービスまで見据えたマルチデバイス対応が難しいわけです。

実は、従来からある CMS でも「ページを量産して階層化して整理する」ツールとして利用されていない場合があります。Fast Company では、Drupal を CMS として利用していますが、ページ管理として使っておらず、テキスト・文字・動画といったコンテンツのアセット(資産・部品)を管理し、Node.js で取得するという手法をとっています。WordPress を利用している Quartz も似たような手法を採用しています。『古い』CMS ですが、今までのような使い方をしていないわけです。

CMS は API のように扱うべきだと話したのが 3 年前の WordCamp ですが、そのように使い始めている企業が増えてきました。Movable Type が、DATA API をリリースしたのも、変化した CMS のニーズに応えるための施策です。後方互換性を保たなければいけませんが、Data API の登場で、今までの Movable Type の枠組みに固辞する必要がなくなったのは大きな前進といえるでしょう。他の CMS も、今までのパソコン向けサイト構築を軸にした考え方から抜け出した機能や工夫を加えています。

スマホ対応は、今や必須の制作項目ではありますが、パソコン向けのコンテンツを管理しているままでは、いくら変換ツールが賢くても限界があります。CMS は今までのパソコン中心の考えから離れはじめています。それを活用する制作者も、PC脳から抜け出して、コンテンツの管理をしなければいけなくなります。

コンテンツフォーカスのシステムへ

1月18日に開催された MTDDC Naogya で、Movable Type そのものの話をしなかったのは、今 CMS に必要とされているのは、CMS を使う私たちの『バージョンアップ』だからです。上記のような API 的な CMS 活用は未来でも理想でもなく、現実に起こっていることです。Movable Type が DATA API という新機能を実装したとしても、今までどおりにパソコン中心のコンテンツ設計をしている間は、DATA API を活かしたコンテンツ配信は困難です。作り方はもちろん、CMS の捉え方そのもののバージョンアップが必要とされています。

多少アプローチが違いますが、今の CMS は、出来ないことを見つけるのが困難なくらい何でもできます。お客様(サイト管理者)が「これできますか?」と尋ねてきたものは、だいたい出来てしまうわけです。「できる・できない」という問題であれば、ほとんどのの場合「できる」になります。制作者であれば「できる」と応えたいわけです。しかし、機能があるからといって、本当に実装するべきなのかどうかは検討しなければいけません。

  • サイト運営に関わる人は誰?
  • 運営のためにどれくらいの時間と予算がある?
  • 開設後どのようなコンテンツが配信される?

こうした質問に応えていないまま、機能だけ実装しても、使い難いという声があがって使われなくなります。せっかくお金をかけて機能を実装しても、使われないのであれば、お金の無駄使いです。

CMS の中に組み込まなくても、配信までのワークフローや、コンテンツ制作の場は別にもつというやり方もありますし、ワークショップの開催やガイドラインを制定することで解決することもあります。CMS のつもりが、プロジェクト管理や CRM まで合体した『化け物』みたいになりました … というのも耳にしたことがあります。機能があるから実装した、という観点で作り続けた結果といえるでしょう。

機能で『できる』ではなく、管理が『できる』ことを考えることが、今の CMS を活用した Web サイト制作で忘れてはならない視点です。何でも出来てしまう CMS だからこそです。

ただしここで、ボタンひとつで簡単・手軽にできる … みたいなことではなく、面倒なことをしなくて済む時間をコンテンツ開発に割り当てるという考え方にシフトさせなければいけません。CMS で楽になることは多々ありますが、サイトへ訪れる人々に対して『効率化』は通用しません。そこで講演では、制作者のバージョンアップと、サイト管理者と一緒にコンテンツについて考えるためのプロセスを紹介しました。

十数年パソコン中心でコンテンツを考えてきたわけですから、一夜で考え方を変えることは不可能です。いきなり「API 的に考えよう」といっても制作者でも無理があります。

たとえ今は従来のように CMS へデータ入力をしていても、そこまでのプロセスを少しずつ変えていくことで「コンテンツのマルチデバイス対応」の意味やコスト感がつかめるようになります。まずは体感して模索することが重要です。こうしたことをいち早く取り組むことが、数年後大きな差を生むことになるでしょう。

筆者について

長谷川恭久

写真:長谷川恭久Webやアプリに関わる様々な話題を取り上げた講演やワークショップをおこなっています。日本各地で講演や社内勉強会を 100 回以上の経験しています。
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