多側面ある一貫性と理解の共有
サイト全体の設計をするときに、必ずといっていいほど考える課題のひとつが一貫性。GUIや情報の配置など一貫性を保ちたい要素は様々です。サイト全体の見た目だけでなく使い勝手や感覚的な印象を統一させることで、利用者にひとつの場にいるという安心感を提供すると共に、一定のブランドイメージを提供することが可能になります。
一貫性というのは単にすべてを同じにしたり、一定の基準を満たせば良いというわけではないところが難しいところ。ソフトウェア、Webデザインにおいて一貫性をつくるということはとても複雑なことだったりします。一貫性とひとことで言っても以下のように細分化することができます。
- 人の認知とシステムの振る舞いの一貫性
- OSのインターフェイスガイドラインを基にした一貫性
- 類似製品にある一貫性(ブラウザの進む・戻るボタンはどれを選んでも左上にあるなど)
- ビジュアルの一貫性
- インタラクションの一貫性
- 操作上の一貫性 (ページレイアウトやフォームなど)
- 用語の一貫性
- クロスメディアの一貫性(Webと紙媒体で同じ振る舞いをしているかなど)
実のところ、上記の一貫性をすべて保つことは難しいことがあります。例えば OS のガイドラインはそれぞれ異なりますし、インタラクションにしても、それぞれ得意・不得意があります。すべての一貫性を保とうとするあまり、特定の環境では「よく出来ているけど、ちょっと違和感」という結果になる場合があります。
上図は Windows 7 と Mac OSX のダイアログボックスです。共に決定のためのボタン群が右下にありますが、「OK」の配置が異なります。Macユーザーにとって、OK のような決定を承諾するコマンドが左側にあることに違和感を感じるかもしれませんが、Windows ユーザーにとってはこれはごく普通のことです。一貫性のためだからといって、「OK」の配置を同じにしたらどうなるでしょう。ささいなことなので気にかける方は少ないかもしれませんが、違和感を感じる利用者はいると思います。
今後ますます広くマルチデバイス環境でサービスを展開したり情報発信をしていかなければなりません。iPhone アプリと Android アプリは、ルック&フィールだけでなく、メニューの配置もそれぞれ異なります。Webアプリにしてもインタラクションや表現には差異がありますし、特定OSの見た目を意識してしまうことで他での違和感に繋がります。
一貫性を保つことは使いやすさだけでなく、ブランドイメージにも欠かせない存在なので無視は出来ません。しかし、様々な側面をもつ一貫性をすべて実現しようとすると、かえって利用者の不便に繋がる可能性もあります。デザイナーと多環境を見据えた一貫性について話す際、以下のような課題を抑えておくと良いでしょう。
- 上記に書かれている様々な一貫性のうち、どれが重要なのか?ビジネスゴールを見据えて考える
- そのプロジェクトにおける「一貫性」を意味をどのように共有するか?デザインガイドライン?それともデザインの理念としてまとめるか?
- 一貫性をどのように実現するか?チェックリストやパターンライブラリの作成?
- 一貫性がない部分を見つけた際、どのような処置を行うかの決定の基準は?そのままにするのか、何か基準を制定するか?
37 Signalsの書籍「小さなチーム、大きな仕事」では「Context Over Consistency (一貫性より文脈)」という言葉が出てきます(和書を読んでないので書籍に書かれている正確な訳ではないかもしれませんが)。一貫性を保つことは重要ですが、それがデザインゴールであってはいけませんし、UX やユーザビリティの基準でもないと思います。破ってはいけない法律のように見立てるのではなく、場合によっては一貫性を無視してその状況に合わせた設計をしましょう。そのためにも、様々な側面をもつ一貫性の理解と共有は必須です。