デザインの推進は簡単なことではありません。デザインの定義が広がり過ぎてしまったことで人によって解釈や期待が異なりますし、デザイナーの責任範囲も様々です。あれこれ挑戦を続けても物事は思うように早く進まないですし、時には悲観的になるかもしれません。

物事が進むのが遅いのはごく自然なことです。何か実践するだけであれば、一週間あればできるかもしれません。ただ、そこで作ろうとしている価値を組織全体に浸透させるのは時間がかかります。組織が大きければ数年かかることもあります。長期戦だからこそ難しいですし、諦めてしまうこともありますが、うまく進める方法もあります。

ペースレイヤリングに基づいた組織レイヤー
中核へいくほど進みが緩やかですが、インパクトが大きくなります

手段の目的化にある罠

例えば UI ライブラリを作ることを目標とします。とりあえず作ることはできるかもしれませんが、作業コストに担う効果は得ることができるでしょうか。

UI ライブラリを作る効果は「作業効率化」と言われています。書籍や記事などでよく言われていることなので正しいですが、「いまどれくらい作業に時間がかかっていますか?」と質問するとほとんどの方が答えられません。一般論として UI ライブラリが作業効率に貢献するのは事実ですが、皆さんが働く組織で最も効果が出る手段が UI ライブラリとは限りません。

「手段を目的としない」という言葉はプロダクトデザイン全般だけでなく、デザイナーひとりひとりにも言えることです。UI ライブラリやインタビューといった手段が先走ってしまい、想定していた効果(言い換えれば一般論と同じもの)が得られず行き詰まってしまうシーンを時々見かけます。手段から始めるとパッと見何かが変わるので分かりやすいですが、本当の変化に繋がらず、そのあと続かないことがあります。

デザイナーの作業効率が悪いのであれば、すぐに UI ライブラリという手段に飛び付かず「自分の仕事範囲で最も時間がかかっているところはどこだろう?」と全体を見渡すところから始めます。デザインツールと向き合うときだけが作業ではなく、要件が決まってからエンジニアに実装をお願いするまでが自分の仕事範囲です。

もしかすると、決済者との認識のズレがあって戻しが多いから効率が悪くなっているのかもしれません。そうした場合、たとえ UI ライブラリを活用して早く作れたとしても戻しが多いという作業効率のボトルネックには効果がありません。代わりにデザインドキュメントをきちんと書く習慣をつけたほうが効果が出る可能性があります。

一般論で片付けず、自分の周りをよく観察した上で「本当の課題は何で、効果が出る手段はどれだろう?」という問いかけが不可欠です。

効果が分かる目標設定

「〇〇を作る」「△△を実施する」は、やりきることが目標になってしまい、効果のある活動をしたのか判断がつきません(やりきることを目標とするなら話は別ですが)。ではどういう目標が良い目標なのでしょうか? 良い目標には 4 つの特徴があります。

小さい

本当に効果が出るかどうかはやってみないと分からないことが多いです。「きちんとやらないと」という考えが先走ってしまい、コストをかけた割に効果が出ないこともあり得ます。UI ライブラリをという大きなものを作ったあとに「誰も使ってくれない」となるのでは勿体無いです。代わりに「規則性のあるボタンを設計できるかエンジニアと一緒に研究する」というアプローチも考えられます。

ラリブラリを作ることにくらべるとはるかに小さいですし、「たったこれだけ!?」と思うかもしれません。しかし、たとえ上手くいかなったとしても軌道修正がしやすくなります。また、ライブラリという大きなものを作る前に気付く課題もあるかもしれません。ついつい大きく考えがちですが、改善を続けられる仕事環境にいるなら小さく目標設定をしたほうが良いでしょう。

絞り込まれている

一見目標が明らかにみえるものでも、ヒアリングをするとサブ目標や裏目標があることがしばしばあります。複数の目標があると、何を重要視して進めれば良いか分かり難くなるだけでなく、評価の仕方にもバラツキが生まれます。いろいろな目標(想い)を盛り込みたくなりますが、グッと堪えて絞り込むか、目標をすべて洗い出して優先すべきことの明文化が必要です。

ここで言う「絞り込む」は「捨てる」という意味ではありません。複数の目標を盛り込むことで、本当は別の手段のほうが効果がある目標まで一緒になってしまうことを防ぐために絞り込みをします。いろいろ目標があったとしても、目標達成に適した施策かひとつひとつ振り返ったほうが良いでしょう。

正直に書かれている

正しく聞こえるような目的によって、真の目標が見え難いことがあります。「ユーザーのため 」「品質向上 」など書かれていたとしても、実際はそこが目標ではないこともあります。たとえ本気で言っていたとしても、ヒアリングしてみると「実はこういうこともあって…」といった目的が明らかになることもあります。

個人的に採用目的でデザイン原則を書いたり、賞を取るためにモノを作るのはアリだと思っています。それが真の目標なのにも関わらず「ユーザーのため」といった言葉ではぐらかされ、関わる人たちの認識がズレたまま進んでしまうほうが不幸です。語っていることと行動が違うことにならないよう、我々が本当に達成したいことは何か腹を割って話したほうが良いでしょう。

お茶濁しフレーズ
良い言葉だが、何が言いたいか分からないときがあります

計測できる

活動を通してどうなっていると「成功」なのでしょうか。計測できるようにしておくと、前回と比較できるだけではなく、個人またはチームの成長の判断材料になります。売上やコンバージョンなどに無理矢理結びつける必要ないですが、計測できるようにすると次のアクションが考えやすくなります。

何を計測するかは、どれだけ絞り込んで目標設定できるかにかかってきます。例えばいきなりデザインの品質向上を目指すのではなく、品質チェックをする習慣化から始めたほうが良い場合があります。その場合、チームでの習慣化を測る「チェック数」が目標にするところから始めます。的確なチェックができているかなど複数の目標を盛り込むと習慣化の妨げになる恐れがあるので、段階的に進めるよう小さく目標設定するのも重要です。

長期視点で意味のある活動を

ワークショップをしたり、外部パートナーを招くことで「これからデザインを頑張っていこう」という雰囲気になっても、成果に結びつかなかったり、組織の文化として根付かないことがあります。デザインは『特効薬』でないからこそ持続的な活動が欠かせませんが、何をしたら良いか分からなくなることがあります。そんなとき、良い目標設定のある4つの特徴を思い出して、手段から始めない組織に合う小さな施策を始めてみてください。