判断力こそ強みだと思っているデザイナーへ
「判断」には、成果物を見ればできるものと、成果物だけではできないものがあります。
判断は商品化されている
デザイナーの「判断力」は、強みになるどころか、次第に「商品」になりつつあります。例えば、Mercor が UI/UX Design Expert という職種を募集しています。仕事の中身は、デザインをつくることではありません。何が優れたアウトプットなのかを定義し、タスクごとの採点基準を設計したうえで、完成した成果物を文章で評価するという仕事です。募集要項には、「なぜこの仕事が基準を満たすのか、あるいは満たさないのかを正確に説明できる文章力」と書かれています。
AIの学習に人間が関わること自体は、新しい話ではありません。画像を見て「これは猫」と答える、文章を読んで、攻撃的かどうかを分類するといった仕事は昔からありました。Wing Venture Capital の強化学習の環境をめぐる市場を分析した記事によると、 2026年時点でこの種の作業を担う市場はすでに50億ドル規模に達し、年50%を超えるペースで伸びているそうです。
ただ、最近では単なるラベル付けにとどまらず、人の判断そのものを学習し始めている点が、これまでとは少し異なります。Verge の記事によると、法律家や科学者、ライターが、模範回答を示すだけでなく、なぜその回答が優れているのかを AI に教える仕事があるそうです。専門家視点の評価方法を『納品』する仕事があると捉えることもできます。xAI も2025年9月、一般的なラベル付けを担当していた500人を解雇し、専門領域を持つ人材に切り替えています。

冒頭に紹介した Mercor のように、デザインの判断の学習も始まっています。Taste Labs は、審美的な判断力を審査で見極める人材「 tastemaker 」が AI の学習支援をしています。 Contra Labsも似たようなアプローチをとっています。『デザイナー目線』でデザインを評価するデータセットも公開しています。

「判断力」という言葉にある2つの意味
生成AIによって手を動かす作業が短縮されたからこそ、残された判断の重要性が増すのは必然です。ただ、その判断が「アウトプットの良し悪し」だけなら、コモディティ化され始めています。ここは人間の判断力が必要と思っているところも、既に学習が始まっていると捉えたほうが良いと思います。
しかし、AIがデザイナーの判断力に取って代わるとは断言できません。「判断」には、成果物を見ればできるものと、成果物だけではできないものがあるからです。何を根拠に選んだのか。トレードオフは何だったのか。自分では良いと思っていたアイデアを、なぜ却下したのか。リリース後に、どのような課題が明らかになったのか。こうした判断の過程は成果物には残りませんが、実はとても重要な部分です。

私たちの判断はとても複雑です。デザインの4大原則を守り、ユーザビリティの基礎を固めるだけで、良いデザインとして世に出せるわけではありません。社内事情、制約、市場の動向、直感など様々な要素が複雑に絡み合い、そのときベストだと考えられるものをアウトとプットしています。完成度の高いデザインほど、妥協した跡がきれいに消されているため、アウトプットを見るだけでは、どのような判断を経て作られたのかが見えにくくなります。
私が「判断力が強みだ」と言うとき、それは成果物だけでは見えない判断の背景を理解し、その判断に基づいて、ひたむきにアウトプットを積み重ねられることを指します。昔からですが、デザインを批評する際も、アウトプットそのものにあれこれ口を出すことはありません。その代わり、そこに至るまでの経緯をよく質問しますが、アウトプットからでは見えにくい判断を明らかにするためです。
前の記事で、複雑な判断を書き出してみようと呼びかけましたが、成果物を見ただけでは分からないことを言葉にすることです。 つまり、現場で働きながら、日々変化する状況に応じて最適解を見つける。そうした人にしかできないデザインの判断力を磨くための活動ともいえます



