感情デザインの必要性と評価のためのヒント

ビックリ顔の子供

あなたは上の写真を見て、ちょっと笑顔になりませんでしたか?
笑わなかったかもしれませんが、悲しくなったり怒ることはなかったと思います。

人は感情の生き物です。自分の想いを表情や仕草によって表現することが出来るだけでなく、他から影響を受けたり、影響を及ぼすことが出来ます。見知らぬ子供の写真を見て、自分の感情が変わったのも私たちが感情の生き物であることの表れでしょう。

ポジティブな感情をデザインを通して引き出すことが出来るのでしょうか。「Design for Emotion」のような書籍が昨年出たのも、感情とデザインの関連性が強いことを示していますし、利用者に注目したデザインプロセスや、文脈を考慮したデザインが注目されるのは、人の感情をどうデザインするかを探求するための手段なのでしょう。

従来のコンピューターと人間の関係は比較的シンプルでした。大きな装置に向かって『作業』をする場合が多かったため、利用者によるインプットと、それに対するアウトプットをどうデザインするかが中心でした。もちろん、そこには人の感情に注目するという考えはありましたが、コンピューターと人間という単一関係の中でどのように感情/体験を作り出すかに特化していたといえるでしょう。

コンピューターと人の関係は従来シンプルだった

しかし、今のコンピューターはデスクに置いてある装置だけではありません。人の手の平にある存在であったり、Nestのようにコンピューターと意識しない何気ないモノと化している場合があります。コンピューターがひとつの大きな装置から、人の生活にとけ込んだ道具になったことで、コンピューターと人間というシンプルな関係ではなくなりました。人の態度や意識がコンピューターの使い方に直接関係するようになったことで、人とコンピューターを取り巻く環境を意識したデザインが必要になりました。

人とデバイスの周りの環境を考慮したデザイン

作業だけでなく、人々の社会活動や生活そのものに大きな影響を及ぼすようになったコンピューター。だからこそ、コンピューターが人の感情に及ぼす影響は以前より大きくなったといえますし、利用者にポジティブな感情をもってもらうようなデザインをすることの重要性が高まっているのでしょう。

では、感情に響きそうな工夫がされていれば良いのかといえば、そうではありません。

Clippy利用者にヘルプ メッセージを表示するOfficeアシスタントには、Clippy をはじめとした様々なキャラクターが採用され、人間味をもたせていました。楽しく簡単に Office を使ってもらうために実装された機能ではありますが、Office 2007 では撤廃されました。楽しそうに見えていたものの、作業を中断させたり、的中した応えが返ってこなかったのが主な要因です。「楽しく」「おもしろく」を追求する前に、まずは使い勝手良く期待通りの動作をすることが重要であるという一例といえるでしょう。

近年、ゲーミフィケーションが注目を浴びているものの、人のニーズを満たした「使いやすさ」「信頼性」「安定性」がなければ成立しないわけです。

LEM Tool感情を測定するための試みもあります。LEMToolは利用者の行動を8つの感情に分けて記録することができるサービス。

体験にも同様なことが言えますが、感情のような数値化しにくい要素どのように評価し、測定するのかが課題になるでしょう。Patrick Jordan の「Designing Pleasurable Products」によると、楽しさや満足度といったポジティブな感情は4つのエリアに注目することで評価できると言われています。

Physio (肉体的・物理的)
理解、把握、適応
Socio (社会的)
社会ステータス、アイデンティティ
Psycho (心理的)
認知、欲求、感情的な視点
Ideo (思想的)
願望、価値観、好み

昨年のUXセミナーで、今出回っている体験を設計するための5階層では足りないと話しました。さらに下に社会・思考・コミュニティという階層があるのではという話をしましたが、Jordan氏の考える感情を評価するための 4 つのエリアを重なるところがあります。感情を引き出すトリガーや「良い」という価値観は国によっても違えば、その人が属している場所によって異なることがあります。誰にとっての良い感情をデザインするのではなく、ターゲットを絞ることでデザインの評価もしやすくなるでしょう。

カッコイイ UI にしてしまえば、良い第一印象を得ることが出来ますが、それがポジティブな感情になり、使い続けるための引き金になるとは限りません。やはり、そこには「思い通りに動く」「ストレスがない」といったエンジニアリングも含めたデザインがあってこそだと思います。利用者に近づいてデザインをするということは、人の感情がダイレクトに返ってくる可能性があるということです。そこにはリスクを伴うことはありますが、踏み込むことで機能リストでは得れることが出来ない差別化にも繋がると思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。