今必要とされているデザインは、特定のデバイスと、それを使う人を意識したモノ・コトはなく、人のライフスタイルに合わせて流動的に変化する世界観ではないでしょうか。

今のところ電子書籍で Amazon Kindle がリードしていると感じる要因は、細かいことを考えなくて良い流動性にあると考えられます。独自形式ですし、DRM だってもちろんあります。しかし、Kindle (ハードウェア) 以外でも読むことが出来ますし、スマホで読んだ続きを、すぐにタブレットで読むことも出来ます。ページ数を覚えたり栞をする必要もありません。細かい設定は不要ですし、「このデバイスでは読めないかも」と心配することもありません。

昨年から日本でもサービスがスタートした Hulu にも同様のことがいえます。数多くのデバイスをサポートしているだけでなく、自分の視聴履歴が使っているデバイスすべてに同期されます。タブレットで途中まで見ていた番組を、見終えた部分からすぐにテレビで再開できる利便性に驚いた方もいるはず。時間を決めて番組を自分で録画して整理しておく必要がなくなり、思い立ったらすぐに番組を見るという視聴スタイルに変化します。

流動的な世界観を作り出しているデザインには以下の共通点があります。

  • どのデバイスから見ても得れるコンテンツは同じ
  • 利用者の文脈によって自動的に最適化される
  • 利用者と利用者が求める価値が一本線で繋がっており、邪魔がない
  • 仕組みを知らなくてもテクノロジーがすべて補ってくれる

図に表すと上のようなものになります。
人が求めている情報・サービス・体験を提供する方法として多デバイス化というアプローチがありますが、私たちデザイナーが意識しなければならないことは、人と彼等のニーズの関係性を壊さないことだと思います。利用者のライフスタイルに合わせるかのように流動的に姿形を変えつつ、コンテンツを提供することが課題になります。

今年の始めに Everyscreenというキーワードを提唱し、増え続けるスクリーンへのデザインが必要になることを記事にしました。これは、身の周りに様々なスクリーンが現れるという意味だけでなく、ひとりの人間がライフスタイルに応じて複数のスクリーンを利用することも意味しています。Kidle や Hulu の例を見ても分かるように、人がそのとき持っていたデバイスに必要なコンテンツが表示されています。デバイスはたまたまそこにあるモノであって、限りなく透明な存在になっています。

デバイス関係なしにスポーツ観戦ができる NFL のサービス。

作り手視点で見れば「結局マルチデバイス対応のことじゃないか」と思うかもしれません。作る上ではそうと言えますが、利用者に価値を提供するという意味では少し違います。様々なアプリやデバイスが出てきて非常に複雑になった現在。そんな今だからこそ、自分のライフスタイルに合わせて、あたかも流動的に変化しているかのようなシンプルさが必要ではないかと考えています。デバイスの対応はあくまで結果であって、人のニーズに応えることができるようにするための世界観の構築には、アプリやデバイスのような作る部分にだけ注目しているだけでは難しいでしょう。

最近、UX の世界ではストーリーを作るといった手法が取り入れられる例を見かけるようになりました。これは、アプリやデバイスといった自分たちが作る部分だけを見ているだけではスコープが小さ過ぎるという危惧から生まれた考え方なのかもしれません。Kindle や Hulu のような巨大なサービスを作らないにしても、人のライフスタイルとニーズをどのようにすれば透明に繋げることが出来るのかを考えることが出来るはずです。スケールの大きな話ではありますが、今後のデザインが取り組まなければならない課題だと思います。