ソーシャルメディアがもつ光と闇
今年のはじめに起こったエジプトの革命。
そこではソーシャルメディアが活躍し、今まで以上に社会活動にソーシャルメディアを活用しようという声が高まった印象がある(遡れば 2004 年のハワード米上院議員の例があるが、日本で紹介したときはほとんど誰も注目しなかったが)。エジプトの件ではソーシャルメディアの底力・有用性が絶賛されたわけだが、私はそのときに「次に何か社会的な変動が起こったときにソーシャルメディアの闇もみえてくるだろう」と感じた。私がへそ曲がりだからなのかもしれないが、まぁそれはそれで。
今回の東北関東大震災で、私はソーシャルメディアに助けられた点は幾つかある。携帯電話サービスがすべて機能しない中、ソーシャルメディアが情報のライフラインとなり、家族や友と連絡をとることができた。被災地にはいないから出来た贅沢であることは承知だが、情報がまったくないという状況はほぼなかったといえるだろう。
こうしたソーシャルメディアの『光』と同時に今回は『闇』も幾つか見た。恐らくエジプトでもあったことなのかもしれないが、日本語ということもありそれが明るみになったのかもしれない。
多くの人はソーシャルメディアのもつ『社会性』をまだ実感していないように思える。私たちは Web が登場したことにより、今まで以上に膨大な情報を手軽に入手できるようになった。それと同時に入手できるのと同じくらい手軽に情報も発信が出来るのが現在である。もう何も書く必要はない。ボタンひとつで多くの人に情報を発信出来るわけだから。
情報を消化する前に私たちは情報を拡散していないだろうか。信憑性を確かめる前に【拡散希望】という必要ないラベリングにより、思考が停止していないだろうか。賛同するしない関係なくソーシャルメディア上の妙な盛り上がり(お祭り)に参加していないだろうか。
社会性をもつということは、共通の土台に立ってある程度の責任を負いながら行動をすることであると考えている。ソーシャルメディアのように発信者と受信者の境目があやふやで、発信が受信並みに簡単なので、社会性をもつことは重要な視点ではないだろうか。
結局のところまだ多くの『ソーシャルメディアユーザー』は TV や雑誌などの情報を消費して、その情報で自分の価値観を作り出している人とそれほど変わらないということが明るみに出たという印象がある。まだまだ受け身なのだ。発信できるというこの大きな力を甘く見すぎているのかもしれない。
ソーシャルメディアは人を繋げるためのひとつのプラットフォームである。そのプラットフォームによる繋がりは感情を増幅させる。時にはポジティブなものだが、恐怖や嫌悪といったネガティブなものもある。情報を吟味することを忘れ、受け身の状態で右から左へ情報を運んでいる人であれば増幅度はめまぐるしいものだろう。
私は情報リテラシーが低い人はソーシャルメディアを使うべきではないといっているのではない。たくさんの情報に触れ、人がどのように使っているのかを学び、自分自身で模索しなければ使いこなすことなんて出来ないと思う。先述したようにソーシャルメディアには光がたくさんあるわけだから、使わないほうが損である。
しかし、私たちは改めて情報を発信していることを意識するべきだろうし、受信する際も何でも鵜呑みにならないよう心がけたい。ボタンひとつで何も考えずに情報発信が出来てしまう今だからこそ、こうした意識をもつことが大切ではないだろうか。それがソーシャルメディアを闇にしないための第一歩だと考えている。
追記
この記事は Facebook グループにて先行配信したもの。グループのほうでは既に幾つかの指摘や意見が出ています。コメントに中にモバツイの例が挙がっていました。モバツイはここ数日の間に公式 RT をディフォルトで行えるように調整したり、少しでも早く表示するための工夫が幾つかなされたそうです。日本ユーザの間では公式と非公式RTという分かり難いルールが一般化されていることもあるので、こうした調整がシステム・デザイン面でなされているのは素晴らしいですね。人の行動はなかなか変わらないわけですから、それをサービスとして補助している印象があります。
Twitter も Facebook もそうですが、情報発信をボタンひとつという最小限にまでに絞り込まれているのは果たして良いのか悪いのか分からなくなるときがありますね。この敷居の低さがたくさんの利用者を魅了していると同時に、「情報を発信する」という重さを感じなくなるという課題もあります。ノイズが増えるのはこうしたプラットフォームの宿命とはいえ、受け取る本人が受け止め方の変化が問われるのかもしれません。
この記事の英語訳が Global Voices Japan に掲載されました。“The Light and Darkness of Social Media”
The graphic is created by Nancy White