マルチデバイス体験のためのデザインの課題

ここ 1, 2 年のアプリ購入の条件はマルチデバイスでシームレスな操作ができることができることが前提になっており、その傾向はますます強くなっています。私が愛用している Byword も保存という操作をすることなく、マルチデバイスですぐにデータにアクセスできることが購入のキッカケになっています。

Launch Center明るさ調整や、スピードダイヤルといった機能もあり。連携できるアプリも順次増えています。

マルチデバイスと同様、重要になってくるのがアプリ間のデータのやりとりや操作が可能なこと。Web サービスを基にして作られたアプリであれば大丈夫ですが、孤立した状態で存在で存在するアプリも少なくありません。Android だともう少しスマートな解決策がありそうですが、iPhone の場合だと Launch Center は便利です。TextExpander と連携をしていて、書いた文章を様々なサービスへ直接投函することができる Drafts も、制限はありますがアプリの壁を超えることができます。

こうしたニーズが生まれるのも、アプリには以下のようなデザインの課題を抱えているからだと思います。

  • アプリは単独で存在しているものがほとんど(閉じられている)
  • OS やハードウェアとの多少連携はあるものの、アプリ間での連携は少ない
  • サービスによる囲い込みが激化している
  • クラウドといっても独自のクラウドが別々に存在している
  • 利用者コンテキストが重要とされているものの、それを読み取る手段が限られている

お勧めのアプリとして紹介したことがある Byword は、iCloud を利用して、マルチデバイスで即座にデータを扱えるようにしています。しかし、iCloud という独自技術を使っているので、他のアプリから Byword のデータにアクセスできませんし、共有することすらできません(メールは送れますが)。

これは Byword の弱点を示しているというよりかは、Apple の課題、今後のマルチデバイスの世界での課題を象徴しているかのようにみえます。Android でも iOS でも素晴らしいハードウェア、素晴らしいアプリケーションはでてきました。しかし、サービスという観点からみると、改善の余地があります。ハードウェアやアプリによって生み出された隙間(溝)を埋めるサービスが必要とされています。

それぞれのデバイスが孤立して存在する世界

こうした課題を Google は認識しているようで、今年の Google I/O は Web / サービスを全面に押しているように見えました。もちろん、Android のセッションはたくさんありましたし、Google Glass も話題になりました。しかし、彼等が向かっている方向は再び Web なのではないか思わせる出来事は幾つかありました。 Dart はその一貫ですし、WebKit から Fork して開発を進めている Blink には Oilpan と呼ばれるメモリマネージャが実装されるそうです。Oilpan によって高機能の Web アプリケーションのパフォーマンスをさらに上げることができます。デバイスのフラグメンテーションが激しい Android の世界を知っているからこそ、シームレスな体験構築への拘りが強いのかもしれません。

ChromiumTechcrunch のこちらの記事によると、Fork した WebKit のコード880万行を Blink のために削除したとか。

ここで「これから Web だ」と結論付けるのは意味がないことです。いずれの方法も一長一短ですし、ゴールを達成するための手段に過ぎませんから、今使えるものを使えば良いと思います。

しかし、アプリのような閉じた世界を設計するにしても、アプリの中だけをデザインすれば良いというわけにはいかなくなってきています。人がどのような状況でアプリに触れるのか、アプリを通してどのようなサービスを得たいのか、その人の生活がどう変わるのかといった、少し大きな視点での開発は今後必要になると考えています。 重要だと思って開発していた機能のプラオリティも変わるかもしれません。

開発するアプリによって尋ねる質問は変わりますが、以下がマルチデバイスの体験をサービスとして提供する際に確認しておきたい項目です。

  • アプリを使うことで、どのようなストーリーが生まれるのか?
  • ターゲットにしている利用者は、様々なデバイスとどう関わっているのか?
  • デバイス同士がどのような関係を生み出すことができるのか?
  • 人はデバイスに応じて関わり方を変えているのかどうか?

アプリの設計は、インターフェイスのような目に見えるところをデザインするだけではなく、関係性という目に見えない部分をどう設計するのも重要になっていきます。単独で閉じた世界に存在するアプリから、利用者にとって都合の良いアプリになるには、こうした目に見えない部分のデザインへの注目は欠かせないでしょう。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。