アウトカムから価値を紐解くプロダクトデザイン
アウトプットが最初にあると可能性を絞ってしまうのに対し、アウトカムは本当に提供すべき価値の模索がしやすくなります。
私は機能から考えるのが苦手です
モノを作る立場だと、どうしても「何を作るか」といったアウトプットで考えがちです。特にリリース後の改善案件は、企画者やプロダクトマネージャから「〇〇を作ろうと考えている」といったアウトプットが起点の相談になる場合もあります。
提案 / 企画サイドでしっかり調査された上でアウトプット提案しているものの、「本当に今やるべき最適の手段か」「ユーザーの求める結果 / 成果に結びつくか」といった疑問を投げかけるタイミングがない場合があります。
こうしたアウトプットがプロジェクトの起点になると、調査(リサーチ)が「答え合わせ / 辻褄合わせ」になる場合があります。
この場合、たとえ調査で別の可能性が見つかったとしても方向転換が難しいだけでなく、アウトプット周辺のリサーチに留まるので抽象度の高いところからユーザーのモチベーションを深堀する機会を失う場合があります。
アウトカムから考える
「デザイン指標を作る前に理解しておきたいアウトカムとは」という記事で、ユーザーがどうなるべきかといった「アウトカム / Outcome (成果)」を基にした指標の作り方を解説しました。アウトカムは指標だけでなく、より良いアウトプットを作るのに欠かせないスタート地点と捉えています。
ある案件では企画者やデザイナーと一緒に、ユーザーに求めるアウトカムを出し合うようにしています。そのとき、以下の質問に答えるとアウトカムが考えやすくなります。
- ユーザーは結局のところを何を達成したいのか?
- ビジネスに結びつくユーザーの行動や状態は?
- そこへ辿り着くまでにユーザーはどういうジャーニーを辿る?
求めているアウトカムは何か。又はそのアウトカムが達成できない理由は何か明文化するところから始めています。また、「起案時に機能(アウトプット)書き込み禁止!」と強く指示して、一旦何を作るかを頭から外すことも重要です。アウトカムから考えることで、自分たちが本当に提供すべき価値が分かりやすくなります。
例えば「検索機能」といったアウトプットではなく、「情報の見落としがなくなる」といったアウトカムから始めたとします。検索機能は情報の見落としをなくす手段のひとつですが、それより良い方法が見つかるかもしれません。検索機能を作ることではなく、情報の見落としがなくなるという価値をどう提供すべきか考えるようになります。
アウトカムを起点とすることで、リサーチのあり方も大きく変わります。
アウトプットだと『答え合わせ』のようなリサーチになりがちですが、アウトカムであれば、「なぜそのゴールを達成したいのか」「行動の背景は何か」「モチベーションはどこからきているのか」といった調査内容が考えやすくなるだけでなく、ひとつの答えに囚われることなく解決のために様々な可能性が広げやすくなります。
極端な話、アウトカムの達成であれば「ボタンを大きくする」でも良いわけです。しかしアウトプットが先にあると、そうしたライトに試す機会を失うことがあると思います。
アウトカム運用の課題
アプリや web サービスに携わるデザイナーや企画者のフォーカスはアウトプット(モノを作る)ではなく、アウトカム(価値を考える)であるべきです。しかし、明日からすぐに「アウトカムから考えよう」といって出来るものではありません。
アウトプットから考える最大のメリットは、何をすべきか明確であること。これは、作り手だけでなくマネージャー層にとっても都合が良いです。管理 / 経営層の中は「誰が何の仕事(作業)をしている」といったアウトプットの把握がしたい方もいます。
一方、アウトカムは抽象度が高く、何を作るべきか決まるまで時間がかかります。組織によって、アウトカムだけ掲げられている状態を不安に感じる場合があります。また、アウトプットを何にするかの決済を現場に委ねるのを難しく感じる方もいるかもしれません。
よって、アウトカムでプロダクト改善を考えられるようにするには、組織のあり方や評価の見直しも一緒についてきます。
例えば OKR のような業務評価制度は、アウトカムをはじめとした抽象度が高めの目標を立てやすいのがメリットです。目標(Objective)達成のためであれば、手段をあらじめ決める必要はないですし、あえてひとつの施策に絞って研ぎ澄ませることも許されます。
デザイナーに限った話ではありませんが、アウトプットが評価軸になると、いかに効率的に早く作ったかが重要視されることになります。もちろん、評価する意味では効率性は重要な項目ではありますが、「ユーザーに価値提供できたか」といった視点での評価が見えにくくなる課題があります。
アウトカムから考え、それを支える評価基準をもつことで、デザイナーは「なぜ作るのか」といった問いを突き詰めやすくなるはずです。
アウトカムについて自分なりに解釈して例を書いた @ogi_shio さんの記事もオススメです。