SNSにある自己表現とFacebookが見出した人の欲求
以前 脱テンプレートなFacebookの難しさと関係の変化 という記事で、SNS の構造や仕組みから見た Facebook の独自性を解説しました。今回は SNS と利用者との関わり方を重点において解説します。日本でこれからどうなるか分からないですが、海外では学生からお年寄りまで魅了している Facebook。なぜ彼等は他の SNS ではなく Facebook にハマるのでしょうか。
ハマるといえば、最近ではゲームの要素を盛り込むという話がよく出てきます。私も昨年末に ゲームをテーマにした講演 をしましたし、そこでもゲームの要素を加えることで楽しさを増幅させることが出来ると解説しました。しかし、そうした要素を追加する前にソーシャルアプリやサービスの本質を見極める必要があります。そこの理解をなしにしては、たとえゲーム的な要素を加えたり、最新技術を盛り込んだとしても意味がありません。Facebook と他の SNS のアプローチの違いを知ることで、本質を見つけ出すヒントを得ることができます。
自己表現の MySpace
SNS を大手メディアを含め、多くの人に知らしめたのは MySpace です。今は音楽を筆頭にエンターテイメントを全面に押し出した見せ方をしていますが、オープン当初はホームページとSNSを足して2で割ったような存在でした。古風な多重 TABLE レイアウトで扱い難い構造でしたが、とにかく何でも出来た MySpace。CSS の知識があればレイアウトも自由自在でしたし、配布されているウィジェット(今でいうとアプリ)やデザイン素材を組み合わせれば、知識がなくても高機能で奇抜なマイページを作ることが可能でした。
マイページのカスタマイズ性の高さが MySpace が人気になった理由といっても過言ではありません。企業は次々とカスタムページを公開していましたし、個人も自由気ままに自分を表現してページの見せ合いをしていました。自分で作るという楽しさもありますし、作ったものに対して評価をしたり、また作り直せるという要素が MySpace を人気 SNS にまで成長させたのでしょう。
自己認識な mixi
日本最大級の SNS といえば mixi。こちらも MySpace ほどではありませんが、自分のページを好きな色や雰囲気に変えるカスタマイズ機能があります。しかし、mixi を急成長させたのは、カスタマイズ機能だけではなく『足跡』の存在が欠かせません。今では反対意見もチラホラ聞くようになりましたが、実装された当時は、ログイン後まずチェックするのが足跡というくらい大ヒットした機能です。2011年6月13日から足跡へのアクセスもよりしやすくなるらしいので、まだまだ重要な機能であることが分かります。
カスタマイズや足跡の機能からも分かるように、MySpace とは異なるカタチではありますが、mixi も自己を基軸とした機能で盛り上がった SNS だということが分かります。ログイン後に表示されるページを見ても、自分の顔が大きく表示され、レイアウトの 1/3 が自分に関する情報が表示されているというのを見てもそれが分かります。
自己表現から連帯感へ
MySpace を人気にしたカスタマイズ機能は、当時に衰退させた機能でもあります。カスタマイズは作っている本人は楽しいですが、見ている側からしてみれば邪魔な存在になる場合があります。誰でも装飾は出来ますが、読みやすくて使いやすいページを作るのは誰でも出来ることではありません。眺めるだけであれば素敵な装飾でも、かえってコンテンツを読み難くしてしまう場合があります。Webサイトデザインでもコンテンツよりデザインが引き立ってしまい、伝えたいことが伝わらないという場合がありますが、MySpace のカスタマイズ機能は、それを誰でも出来てしまう環境を作ってしまったのでしょう。
それでは、Facebook はどうなのかというと、ログイン後のページを見ただけ違いが分かります。人によっては殺風景と感じる Facebook のデザインですが、そのおかげで友達のコンテンツが引き立っています。レイアウトの半分以上を占めるニュースフィードは様々な情報が入り組んでいますが、秩序は保たれているのでスキミングをするのは難しくありません。また、機能も自分の友達(ネットワーク)と、どうコミュニケーションをとりたいかという部分に集約しています。Like のように自意識をくすぐる機能がありますが、これにしても友達のとのコミュニケーションを前提にしているひとつのジェスチャーに過ぎません。
自分をどう表現するかに重点を置いている従来の SNS。他人とのコミュニケーションの仕方を基軸にして機能を増やしている Facebook。人は他の人のことが知りたい・繋がりたいという欲求があることを理解した上でのアプローチです。
自分には個性がある、他人と違う、特別であるという思いは誰でも多少あるでしょう。それを助長する機能を実装することは無駄ではありませんが、多くの人を長く引きつかせる機能ではないということが MySpace である意味、実証されたのかもしれません。
mixi がどうなるかは、今後の舵取りによってどうにでもなりますが、MySpace と同様に自己表現を基軸にしているという意味ではアプローチの変化が必要な時期に来ているのかもしれません。MySpace に比べればスマートなカスタマイズ機能ですが、利用者の自己表現や自己認識を煽る機能を強化することで、繋がっている友達を含めたコンテンツが薄まってしまう可能性がありますし、結果的にサービス全体の魅力が薄れることも考えられます。
今回の記事は Facebook 万歳と言いたいのではありません。ここで注目しておかなけらばならないのは、人がソーシャルアプリに魅了される理由は何かを突き詰めることです。
今後 ソーシャルアプリ を設計する上において、自分がどう見られたいかを設計する前に、自分がどう対話したいのかという部分に集約することで、多くの人を魅了するものに出来るかもしれません。