変換だけではないモバイル対応

サイト制作の仕事の依頼がきた場合、どの手法で制作するのかという議論をするのではなく、今のコンテンツがどのような状態にあるのかを共有するようにしています。見た目だけ、なんとなくモバイル対応するのであれば、難しい仕事ではないですし、極端な話、自動変換ツールを使えば済む課題です。

しかし、作ってはみたものの、文章は途中で切れていたり、重要な情報はパソコン版で見ないと分からないといった中途半端なサイトになることがあります。「パッと見の良さ」や「今すぐあること」を重要視してしまうが故に、企業にとっても利用者にとっても不十分な結果になります。

今のモバイル対応は見た目の『変換』が最優先で、企業が担保したい体験まで設計しきれていないのが現状です。企業が担保したい体験 … それは、企業が提供したいサービスやコンテンツをデバイスに関係なく提供できることだと考えています。

より厳しい目でコンテンツをみる

キャンディーきれいに包装されていても、味が良くなければ食べてもらえません。

見た目やインタラクションが体験に深く関わりがあるのは確かですが、利用者が期待しているサービスやコンテンツを提供していることが大前提にあります。つまり、コンテンツへきちんとアクセスできないまま、見た目やインタラクションを良くしたとしても体験が改善されることはまずありません。

体験の大前提であるコンテンツのほうですが、こちらも課題が山積みです。パソコンを中心にコンテンツを作り続けてきたことで、柔軟性がないものであったり、管理を複雑化していることもあります。また、厳格なコンテンツの選別を行わなかったことから「とりあえず掲載している」コンテンツもあれば、そもそも自分たちだけが良いと思い込んでいるコンテンツも少なくありません。

利用者にとって最低限必要としているコンテンツはなにかを探ること。そしてそれをどのように提示すると良いのかを考えること … それ以外はすべてプライオリティが低い「あると嬉しいけど、なくても良い」コンテンツです。これはパソコン向けではあまりない考え方ですが、多デバイスに向けた体験の担保という意味では、なくてはならない視点です。今、これくらい思い切ったコンテンツの厳選が必要とされています。

作る前にある大きな課題

小さなスクリーンのデバイスは簡略化し、コンテンツの量を 50% くらい少なくすると丁度よい

こうした考え方は、小さなスクリーンのデバイスは 2 台目に購入するサブマシンであり、移動中やちょっとした空き時間に少しだけ使うものであるという先入観から生まれてきます。今はスマートフォンからショッピングや絵を描いたりする人もいるわけですから、デバイスだけで文脈を特定することはできません。

コンテンツの量もパソコン版を基軸に、どれくらい減らすをおおまかな割合で決めるのではなく、求められているコンテンツが適切な量かを検討する必要があります。パソコンでもスマートフォンでも「シンプル」を求められているのは確かですが、それは「簡略、排除」と同義語ではないわけです。

多デバイス化の話になると、どうしてもパソコン以外のデバイス対応という意味合いが強くなりがちです。しかし、利用者が求めているコンテンツかどうかを評価し直すことは、スクリーンサイズに余裕があるパソコン向けのサイト制作でも必要なこと。「欲しい情報へアクセスしたい」「求めているサービスを受けたい」という人の欲求はデバイスに関係ないわけですから、冗長で自己主張だけが激しいサイトは、パソコンでも利用者から遠い存在になるでしょう。

USA TodayレスポンシブWebデザインの好例として紹介されることが多い USA Today ですが、特筆すべきことは手法ではなく、読者が必要としているコンテンツを最優先に出し、それ以外は排除した点にあります。

見た目や形をすぐに求められることが多いサイト制作ですが、形作る前の下準備があるかないかで、提供したい価値の質が大きく変化すると思います。