利用者によりよい体験を提供するために設計をする・・・といっても膨大な課題です。どれに手を付け始めたら良いか分かりませんし、何にフォーカスして考えたら良いのかもハッキリしません。ペルソナ、シナリオ、ストーリーなど、UX を考える上で便利な方法論やツールはありますが、照準を絞った視野がなければ一体何をしているのか分からなくなる場合もあります。UX はユーザビリティやインタラクションデザインに比べ、照準が広くなってしまう場合があり、何に注目し、どう設計するのかがあやふやになりがちです。

プロジェクトの UX の何にフォーカスしたら良いのか分からない。そんな時は「体験」の意味を少し分解し、結局のところ利用者は何をしたいの?という部分に立ち返ると何をしなければならないのかが見えやすくなります。そこで、UX を大まかに3要素に分解してみました。

人、文脈、製品・システムを表す図

1. 人

モバイルにある3つの場所レイヤー で、人は3種類の『場所』に立っていると解説しました。では、その場所に立っている人はどのような存在なのでしょうか。製品と向き合うときの気分や、身体・精神的状態はダイナミックに変わり続ける場合がありますし、気まぐれなものです。いつもは何気なく使えてた製品でも、ある日突然使い難く感じる・・・ということもありえます。

人の体験は、その体験している瞬間だけをさすのではなく、記憶を辿って体験を思い浮かべる場合の2つがあります。素晴らしい音楽が流れていても、酷い終わり方だと「これは本当に駄目な音楽だ」と評価することがあるほど、思い出としての体験の影響力は強いです。いかに最後の印象を良くするのか、全体からみてピークになる体験は何かを見極め、そこの設計に集中するというアプローチがあります。

2. 文脈

以前から指摘しているコンテキスト / 文脈。利用者が触れている製品が変わらなかったとしても、利用者が触れるときの文脈は異なる場合があります。デスクトップからのアクセスとモバイル機器からのアクセスは異なるでしょうし、何を達成したいかというのもそのときどきで異なります。

どのタイミングで製品・サービスと関わることを見極めることが出来れば、どのような技術を使い、どのような情報設計が最適なのかが見えてきます。文脈を理解するために利用者の動きをストーリーにして構築してみたり、ページフローをみてみるのも手段です。

3. 製品・サービス

利用者が触れる製品・サービス・システムが利用者の体験に最も影響がある要素です。機能面、見た目、インタラクションなど、設計された様々な要素が利用者の使い心地や気分に何かしらの影響を及ぼします。利用することで得た印象が、製品を設計した企業のイメージにも影響します。

私たちデザイナーや制作者が「設計する」と指しているのはこの部分です。ビジュアルデザイン、インタラクションデザイン、IAなど様々な要素が関わる複雑で広い領域。しかし、先に挙げた人と文脈を踏まえることでどこにフォーカスするべきなのかも見えてきますし、調査するべき領域のヒントも得ることができます。このことからも分かるように、本格的な製品・サービスの設計に入る前に、先の2要素の理解が欠かせません。

選べる力を身につける

すべてのページで高い水準のデザインがなされた Web サイト。様々なフローにおいて最高と考えられる体験が設計された Web アプリケーション。それが出来れば最高ですが予算、時間、組織構成などで実現が難しい場合があります。デザインは取捨選択を必要とする場合があるわけです。そのときにプロジェクトにおいて何が「欠かせない体験」「思い出してほしい体験」なのかを見極めなければいけません。すべてにコダワリ過ぎることでフォーカスしなければならない部分の質を落としてしまう場合があります。全体的にはなんとなく良いんだけど、印象が残らない、また使いたいと思えない・・・そんなことになる場合もあります。

Webデザインには終わりがないと言われて随分経ちますが、それは同時にすべてを『完成型』にすることは出来ないということを指しているのかもしれません。私たちはデザインにおいて何がゴールなのかを見極め、他にもやっておきたい項目があっても、あえて照準を定めて設計する選別の力と勇気が必要です。そのときに先に紹介した3要素にまず注目すると考えやすくなると思います。