UXが付く肩書きがもつ不安感
UX デザインとは何かという定義をあれこれ考えるより、自分がどういう価値をユーザーとビジネスに提供できるのかをハッキリさせたほうが良いと思っています。
未だに何でも屋状態
ある日本の就職・求人サービスでみた「UI/UX デザイナー」の応募資格が以下のようなかんじでした。事業会社、クライアントビジネスをしているかで若干異なるようでしたがデザインとコーディングがある程度できることは必須のようです。
- Photoshop、Illustrator , Sketch
- HTML, CSS は必須で、せめて jQuery は書ける
- グラフィックデザイン力
- コードの設計スキル
- ビジョンから具現化できる能力
中には上記に加えて「進行管理など、ディレクション」「サービスの企画、設計 」「ユーザー分析 」を求めるところもあります。広範囲で仕事をしてほしいと考える企業が多いのが分かります。私も若い頃は企画、デザイン、コーディング(少し PHP)を一通りやっていたのでスキルアップのために広範囲で仕事に携わるというのは良いことだと思います。ただ、市場(企業)が求めていることと、デザイナーができること・やりたことがマッチしているのか気になります。
ユーザーエクスペリエンス (UX) が、『製品やサービスを通じて体験するすべて』と定義されていることから、非常に大きな話になりがちです。 UX を構成する 5 つの段階 を見ても『全部入り』な表現がされています。UX がカバーする範囲が広過ぎるので、募集する企業は何でもできる人を求めてしまうのかもしれません。
視覚化されている内容は分かるが、何をしたら良いか分からない
UI デザインを徹底的にやりたいと思っていても、市場(企業)はそれ以上のことを求めているように見えます。一方、UI デザイン・グラフィックデザインという『見た目を作る』という仕事はマストであるという見方もできます。例えば 調査をしっかりやりたいと思っていても、見た目を作る作業が UX デザイナーにおける職域の主戦場として捉えられているようです。
こうした状況は、デザインの組織化がされていない企業や、小さな企業に起こりがちなこと。まだこうした募集が絶えないのをみると UX デザイン、UX デザイナー市場はまだ成熟期に入っていないのかもしれません。求められていること、実際やることのギャップはまだ残っています。
UXデザイナーとしてのキャリアパス
成熟するとどうなるのかのヒントを見る上で Google の UX 関連の求人情報 は興味深いです。もはや「UXデザイナー」「UI/UXデザイナー」は存在せず、以下のような方を募集しています。
- UX Design Lead : デザインチームのリーダー・マネージャー
- Quantitative User Experience Researcher : 定量調査に特化した方
- UX Researcher, Google Maps : プロダクトのある機能に特化した募集
- Interaction Designer : インタラクションの見せ方と実装に特化
- Android UX Engineer: プラットフォーム縛りで実装寄りの UX 提案をする
- UX Write : ヘルプやラベルのライティングの責任者
- Voice Interface Designer: ボイス(対話などの)デザイン
広範囲の仕事をする方には Full Stack と表記されていますが、多くの場合はコラボレーションをすることを前提としつつ、特定の領域を深く掘り下げられる人が求められているようです。 Google ほどの巨大組織でないとここまで細分化は出来ないですが、UX デザイナーのキャリアを考えるときの参考になります。
今のように「見た目を作るところを中心に全部やる」UX デザイナーのままだと:
- どれも深掘りできない状態になる
- 深掘りできていない自分に対して不安になる
- 組織化してデザインをスケールさせにくくなる
- 器用にやりくりしていると、組織化に頭が回らなくなる
- 調査・戦略といった前行程が後回しになる
- 管理職(マネージャー)しかキャリアパスがない可能性も
広範囲にいろいろ経験するのはキャリアの最初は良いですが、「次」を考えた時に今の UX デザイナーは未来がないというか、このまま器用に全部やりくりすることにならないか不安になります。UX デザインとは何かという定義をあれこれ考えるより、自分がどういう価値をユーザーとビジネスに提供できるのかをハッキリさせたほうが良いと思っています。「ユーザーに良い体験を設計します」とかだとユルフワ過ぎて「で、結局何するの?」ということになるでしょうし。