コンテンツの視覚化から始まるマルチデバイス設計プロセス

amplifizr の様子

先月、岡山で開催された amplifizr, Vol. 6 を皮切りにマルチデバイス化のためのコンテンツ戦略がスタートしました。全国、合計5ヶ所で開催されたマルチデバイス化を見据えたコンテンツ設計 基礎講座の続編になります。

スマートフォンサイトを制作するためのノウハウは国内外でたくさん見つかりますし、素晴らしい見た目のサイトも増えてきました。しかし、コンテンツがパソコン中心に作られていることから、スマートフォン向けにうまくコンテンツが移行できなかったり、過剰な省略がされていることがあります。サイトの見た目のマルチデバイス化は進んでいますが、コンテンツのマルチデバイス化はまるで進んでいないというのが現状です。

Adaptive Contentここ 2, 3 年 アダプティブデザイン に注目が集まっていますが、様々な利用者文脈に合わせてコンテンツを配信するためには、そもそもそのコンテンツがマルチデバイスを見据えた設計になっている必要があります。見た目だけ変えるだけでは意味がありません。

基礎講座ではこうした問題を感じていただくことが中心になりましたが、今回は具体的にどのように取り組めば良いのかという内容になりました。

今回のキーワードにもなっているコンテンツ戦略は 3 時間のイベントでも足りない非常に大きなフィールド。しかも、UX やユーザビリティ、システム開発にまで領域が広がるモヤっとしたところもあるので、コンテンツ戦略の仕事で発生する成果物の話をすると情報過多のわりには何が重要なのか分からないという問題が発生する恐れがあります。そこで今回は、コンテンツの棚卸しとも言われている、「コンテンツインベントリー」と「コンテンツモデル」の 2 つにフォーカスして、いかにコンテンツの設計とデザインに影響を及ぼすのかを解説しました。

始めると意外と見えてくる課題

コンテンツモデルに関しては以前、設計のヒントを生み出すコンテンツ要素の視覚化という記事で少し解説したことがあります。ページの概念を根強く残したワイヤーフレームやサイトマップを作り始める前に、まずはコンテンツのみに集中して、どのような構成が正しいのか、メリットを生み出す関係性は何か、ビジネスをサポートするグループは何処かを模索する必要があります。今回のセミナー・ワークショップでは、これを深く掘り下げた内容になりました。

コンテンツインベントリーにも言えることですが、コンテンツモデルの制作は今までしたことがない制作工程という方もいると思います。こうした見慣れない手法を加えることでコスト高になるだけのように見えますが、今までの無駄を取り払ってくれる貴重なツールになります。画面要素を取り払い、純粋にコンテンツと向き合うことで具体的な課題が見えることがあります。

福島のワークショップの様子福島のほうでは 郡山地域ニューメディア・コミュニティ事業推進協議会 の主催で開催されました。岡山と同様、福島でも参加者による濃いワークが発表されました。

ただ見た目を作る、リニューアルをするといった手段が目的になりがちだったことも、コンテンツインベントリーを作ることで、必要最低限で効果的なチューニングのために必要な事は何かが見えてきます。また、コンテンツモデルを作ることで、ビジネスが必要としていること、利用者が必要としていること、そして運営上の制約について模索することができますし、より現実的な画面設計を落とし込むことが可能になります。

それでも説明を聞いただけでは実感が湧かないということもあるので、コンテンツモデルをワークで実際に作ってもらったわけですが、手を動かす過程を通してコンテンツモデルが実際仕事の役に立つということを実感していただいた方がたくさん出てきました。すぐに導入は難しいかもしれませんが、まずはコンテンツの見直しから始めるだけでも大きな違いを生み出します。たかがリストを作るなんて面倒・・・と思うかもしれませんが、騙されたと思って始めて見ると得するかもしれません。

ただ制作しているどころの状態ではない

それなりの見た目で、多デバイスでもそれなりの形で見えてたら良いというのであれば、自動変換機能が付いた Web サービスや市販のテーマをカスタマイズするくらいで十分です。CSS Nite in AOMORI Vol.7 の基調講演でも話しましたが、ただ作るだけが目的のようなサイト制作案件に Web プロフェッショナルがフルコミットで関与しても、お互いにとって幸せな結果にはならないと思います。中身ではなく見た目ばかり気にしている状態であれば、今までの作り方で良いわけです。

しかし、マルチデバイスの世界は今後ますます混沌とした状態になります。日本のスマートフォン市場だけを見たとしても、画面サイズは 0.1 インチずつ違う状態ですし、今後 3 インチ前後の小さな画面で情報を見るという時代も来る可能性があります(今は過渡期と我慢していても、今後ますます混沌化していきます)。そのときに自動変換ツールを使って情報配信することができますが、タイトルも本文も中途半端なところで切れているので、何を意味しているのか分からないという状態になります。マルチデバイス化が進むことで、見た目はそれなりに良くても、コンテンツはますます壊れた状態になる可能性がでてきます。すべてが「…」と省略されていたら見る気が失せてしまうでしょう。

せっかく作っても満足しているのはクライアントだけ・・・そんな状態にならないためにも、早期からのコンテンツ投資は欠かせません。それを考えるキッカケと取り組みのためのヒントを講座を通して感じていただければ幸いです。

今後の予定

なお、マルチデバイス化のためのコンテンツ戦略は今後各地で開催予定です。6月3日現在決まっている日程と会場は以下のとおりです。

基礎講座も含めて、場所を作っていただければ何処へでも行きますので、ご検討くださいませ。なお、このシリーズの完結編になるコンテンツを活かすためのUI設計も、2013年 6月8日(土)に岡山でスタートします。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。