前回「ピクサーが考えるイノベーションの鍵」で、ピクサー映画のおもしろさの秘密の断片を紹介しました。ブラッド・バード監督は映画「アイアン・ジャイアント」の成功でピクサーに入った方で、オリジナルメンバーではない方です。スティーブ・ジョブスが彼をスカウトしたそうですが、その理由もトイストーリーシリーズで成功を収めたピクサーがこのままの状態に留まらずイノベーションをし続けるためのの起爆剤としての役目だったとか。結果的に今でも先進的なアニメーションをピクサーは作り続けているわけですから、ジョブスの英断だったといえるかもしれません。

新作「Wall-E」は、「ファインディング・ニモ」を手がけたアンドリュー・スタントンですが、バード流イノベーションが受け継がれた作品に仕上がっているそうです。Animation World Magazine というアニメーションに特化したウェブマガジンで「Hello, WALL-E!: Pixar Reaches for the Stars」という「Wall-E」を扱った記事が掲載されています。この記事を読んでいるだけでも刺激を受けますよ。

今までの作り方を根底から覆す
今回の映画での注目は、なんといってもほとんど会話がないという点でしょう。主人公がロボットというだけあって、ジェスチャーによるインタラクションが多いです。映画でストーリーを語るにおいて、会話は重要な要素でですが、それが抜けているわけです。ひとつの要素がほとんどないわけですから、それを埋めるのは他の要素(例えば音楽や表情)で埋めなくてはいけないわけです。つまり、ストーリーを語る際のバランスが今までと異なるので、アプローチの仕方もゼロから考える必要があったでしょう。しかも人間ではなくシンプルな動きしか出来ないロボットだったわけですから、様々な模索や工夫がされたとおもいます。
実写映画のように作られた CG 映画
スタントン監督は 60年代, 70年代の SF 映画やドラマから今回のインスピレーションを得ていたわけですが、CGアニメを製作しているピクサーにはライブアクションのノウハウがありませんでした。そこで、カメラのように実際動き回れるプログラムを今回のために作成し、「ノーカントリー」で撮影を担当した Roger Deakins を招いてシーンの『撮り方』のアドバイスを受けたそうです。CGアニメだから CG アニメらしく作る事ないと感じさせるアプローチです。
完璧にしないために力を注ぐ
「およそ 90% の作業は完璧にしないための作業だったといっても良いだろう」とスタントン監督は語っています。実写映画のように見せるために、わざと手ぶれっぽく見せたり、カメラの移動の仕方もあたかもカメラマンが視界の端の変化に気付いて動かすような雰囲気を作ったりして、人間らしさを撮影に盛り込んだそうです。実写撮影をしている方をチームメンバーに招くことが結果的にこうしたリアリズムの味付けになっているのでしょうね。

CG映画だから CG が分かる人ばかりを集めず、専門外の方のインプットによって映画の輪郭が作られているという部分はブラッド・バード的なイノベーションを感じますね。

ちなみに劇中に出てくる白いロボット EVE は、アップルのデザイナー、ジョナサン・アイブがデザインしたそうです。こうしたトリビア情報も含めてこの冬、楽しみにしております。