映画

A collection of 10 posts

Her
映画

Her

「マルコビッチの穴」や「アダプテーション」で知られるスパイク・ジョーンズ監督は、映画で描かれる奇妙な世界が『売り』になることがあります。しかし、彼の映画の本当の魅力は、主人公と同じことを痛み苦しむことができるほどの観察力にあると思います。 いずれの映画のフォーカスは常に主人公であり、「自分は何者であり何処へ向かっていくのか」というメッセージが根底にあります。登場人物は他にも出てきますが、それは主人公の感情が反映されたシンボルであったり、超主観的な歪みすら感じられる人間像が描かれることがあります。こうした世界に主人公が生きているからこそ、感情移入がしやすいのかもしれませんし、同時に孤独を感じるのかもしれません。 2013年の彼の最新作「Her」も例外なく、主人公 Theodore の世界と、彼の痛みや苦しみ、そして喜びを一緒に感じることができる映画です。ボイスコントロールで操作できるコンピュータ達、奇抜かつシンプルな

ゼロ・グラビティ
映画

ゼロ・グラビティ

映画「Gravity (邦題 ゼロ・グラビティ)」のあらすじは、「事故に見舞われた宇宙飛行士が、無重力空間のなか、地球への帰還を試みる」というシンプルなもの。アクション映画と思って劇場へ向かった人もいるかもしれませんが、まったくそうではなかったと気付くと思います。 映画の設定もハリウッド映画ではあまり見ないものでした。登場人物はわずか 2 人(アポロ13 でも司令室に立っていたエド・ハリスが声で出演しています)。舞台もほぼ一カ所で、しかも文字通り何もない宇宙。無音を巧みにつかった演出。独立映画や実験映画でしか見られないような設定でありながも、ハリウッドのもつ最新技術を活用することで、今までにないストーリーテリングが生まれるということを証明した映画ともいえます。スーパーヒーローと、リメイクと、続編と、小説の映像化が多いなか、オリジナルストーリーだったという意味でもよかったです。

Indie Game: The Movie
映画

Indie Game: The Movie

ゲームはアートと呼べるのでしょうか。 そうとは呼べないものもあるかもしれません。ゲームはアートとはいえないと思っている人も 2012 年のドキュメンタリー映画「Indie Game」を見れば考えが変わるかもしれません。3 つのインディゲームの開発模様を追ったこの映画。その中で開発者のひとりは「自分の良いところも悪いところもすべてゲームにぶつけている」と話しています。彼等がどのようにしてゲームをつくり、世に送り出しているのかを見終わったときに「はたしてゲームはアートを呼べるのか」という疑問が頭をよぎるかもしれません。 制作会社でビックタイトルの開発に携わるのではなく、ゲームデザインからグラフィックまですべてを 1 人又は少人数で開発する意味とは何でしょうか。続編に頼ったリスクの少ない商業化されたゲームではなく、自分たちがつくりたいゲームをつくる。それはとても『カッコいい』響きですが、実際は恐怖に満ちあふれた世界です。そこで彼等は身も心も削りながら、ゲームを少しずつ組み立てていきます。開発者ひとりひとりにフォーカスしたインタビューを通して、

プロメテウス
映画

プロメテウス

このレビューは、映画の内容に触れている部分が幾つかあり、中には結末に関わる重要な要素も含まれています。未鑑賞の方は読まないでください。 映画「プロメテウス」を鑑賞して最初に感じたのが、マーケティングを誤ったようにみえた点です。Web を活用したバイラルキャンペーン自体は非常に面白かったですが、こうしたマーケティングを通して「面白そうなSFモンスター映画だ」と感じた方もいるはずです。初代「エイリアン」の直系の序章ではないとされているものの、同じ世界での物語であること、そして多彩な異型物が登場することから、ビジュアル的に楽しめるエンターテイメント映画と考えた方もいるでしょう。 確かに、ビジュアルは圧巻でした。前回レビューをした「ダークナイト・ライジング」に比べると、神の視点とも呼べる大きな視野のシーンが多数ありましたし、登場人物を常に見下ろしているかのように見えるシーンは、人間の創造をテーマにしたこの映画には最適な見せ方だったと言えるます。 SFやモンスターを題材にしたエンターテイメント映画と捉えると「プロメテウス」

ダークナイト・ライジング
映画

ダークナイト・ライジング

このレビューは、映画『ダークナイト・ライジング』だけでなく、前2作の内容について供述されています。『ダークナイト・ライジング』のストーリーにおいて重要な部分は省いてありますが、内容は知りたくないという方は読まないでください。 バットマンシリーズが作り出した英雄像 クリストファー・ノーランの作り出したバットマン3部作のテーマは「英雄(ヒーロー)は幻想的な存在である」だったと思います。近いようで果てしなく遠い存在。特定の人ではなく、超越した何か。それが幻想であり、英雄の姿なのかもしれません。そして、ノーラン監督はこの「英雄は幻想」というひとつのテーマに対して様々な角度から捉えることで、3つの映画を作り上げたといえるでしょう。 『バットマン・ビギンズ』

The Greatest Movie Ever Sold
広告

The Greatest Movie Ever Sold

『スーパーサイズ・ミー』で知られているモーガン・スパーロックのドキュメンタリー映画。毎回おもしろい視点でドキュメンタリーをつくっていますが、今回は広告やプロダクト・プレイスメントがテーマ。プロダクト・プレイスメントとはテレビ番組や映画の中で企業の商品を登場させる宣伝広告の方法。シーンに何気なく登場する製品は実は宣伝のため・・・ということはよくあることですが、このドキュメンタリー映画自体もプロダクト・プレイスメントで作られています。実践しながら題材について語るというメタ視点な映画です。 映画に携わる人たちは映画のことを「Movie Business(映画ビジネス)」と呼ぶことがありますが、スポンサーなしで作られている映画はごくわずかといって良いほど映画はビジネスと化しています。巨額な資金が必要な映画であるが故に、企業の関与が必要となる場合が多いのでしょう。プロダクト・プレイスメントもさりげないものから、明らかに CM のようなものまで様々。時には脚本にも影響を与えるほどの力をもつ場合があります。 ブランド・パーソナリティを構築し、

ザ・コーポレーション
映画

ザ・コーポレーション

法律によって「人」とされている法人に対して精神分析をしたらどうなるだろう?それがドキュメンタリー映画『ザ・コーポレーション』のテーマです。どん欲に利益を求め続ける法人の行動が、環境・社会・動物・人を傷つけていることがあります。嘘つきで長期的な関係を続けることが出来ない法人は、人格障害者と変わらないと判断されてもおかしくないそうです。しかし、法に守られ、法によってつくられた人であるが故に犯罪にならず、今日も利益を追い求めています。 映画でも指摘していますが、利益をどん欲に追い求める法人に働く人たちも悪なのかというとそうではありません。法人がもつ独立した人格は、そこで働くひとりひとりの人格を反映しているわけではないわけです。もちろん、彼等の仕事が何らかの形で求められる利益を生み、法人の欲を満たしていることはあるでしょう。劇中でも自分は自分の仕事をしているわけであり、それをきちんとこなすことが重要であると主張している方はいます。それと同時に環境を破壊している企業の CEO は一般市民の声に真剣に耳を傾けている姿もでてきます。

ソーシャル・ネットワーク
映画

ソーシャル・ネットワーク

もしこの映画を Facebook が出来るまでの話、そして米国 IT 業界の裏側が知りたいと思って見たのであれば落胆してしまう映画かもしれません。映画『ソーシャル・ネットワーク』は Facebook や実在する方達の名前が登場するノンフィクションのようなフィクション(物語)を語っているだけのように見えると同時に、象徴的な設定やシーンが多い映画でした。 私たち人間は「地位を築きたい」「他人から認められたい」「誰かからの賛同・賞賛を聞きたい」という欲望をもっているかと思います。これらの欲望は Facebook という SNS ではステータスアップデート、友達リスト、Likeボタン、といった機能によって具現化されているといっていいでしょう。そして、

Slacker Uprising
映画

Slacker Uprising

マイケル・ムーアが2004年のアメリカ大統領選挙を前に、全米62カ所をツアーした模様を映し出したドキュメンタリー映画。その年は「華氏911」が公開されるなど、精力的に政治的活動を行っていたムーア監督。大学生を中心とした若い世代へブッシュに投票しないよう呼びかけるために、共和党色の強い州や激戦区になっている地域で演説を行いました。彼のドキュメンタリー映画は賛否両論があると思いますが、彼のアクションや批判を恐れない勇気は尊敬してしまいますね。 プロパガンダと言われることもありますが、ジャーナリズムと名ばかりでブッシュ政権への客観的な批評や、詳細な調査を怠っていたアメリカの報道にも問題があったと思います。それゆえ、ムーア監督がドキュメンタリー映画を作って議論の場を作っているのでしょうし、本当は彼がわざわざ作ることもなかったのかもしれません。名ばかりのジャーナリズムは何もアメリカだけではないと思いますが、違いはムーア監督をはじめ数々の声とそれを発する勇気を持つ人々がアメリカにはいるということなのでしょうか。 肝心の映画のほうですが、ミュージシャンのライブDVDを見ているのと同じような感じでした。彼特有の編集やカットもなければモノローグもありません。BGMも使い回しがあったりして単調な感じがしました。もちろん、ありのままの姿、特に講演を支えた若い世代の方達の声を反映するという意味では今のようなのが良いのかもしれませんが、見ている側としては少し物足りない気がしました。 この映画はインターネット上で無料で公開されたことで一時期話題になりましたが、現在はインターネットだけでなく、本編に幾つかの特典が付いている

映画

「Wall-E」のアニメーションは完全なる不完全

前回「ピクサーが考えるイノベーションの鍵」で、ピクサー映画のおもしろさの秘密の断片を紹介しました。ブラッド・バード監督は映画「アイアン・ジャイアント」の成功でピクサーに入った方で、オリジナルメンバーではない方です。スティーブ・ジョブスが彼をスカウトしたそうですが、その理由もトイストーリーシリーズで成功を収めたピクサーがこのままの状態に留まらずイノベーションをし続けるためのの起爆剤としての役目だったとか。結果的に今でも先進的なアニメーションをピクサーは作り続けているわけですから、ジョブスの英断だったといえるかもしれません。 新作「Wall-E」は、「ファインディング・ニモ」を手がけたアンドリュー・スタントンですが、バード流イノベーションが受け継がれた作品に仕上がっているそうです。Animation World Magazine というアニメーションに特化したウェブマガジンで「Hello, WALL-E!: Pixar Reaches for the Stars」という「Wall-E」を扱った記事が掲載されています。この記事を読んでいるだけでも刺激を受けますよ。 今までの作り方を根底から覆す 今回の映画での注目は、なんといってもほとんど会話がないという点でしょう。主人公がロボットというだけあって、ジェスチャーによるインタラクションが多いです。映画でストーリーを語るにおいて、