法律によって「人」とされている法人に対して精神分析をしたらどうなるだろう?それがドキュメンタリー映画『ザ・コーポレーション』のテーマです。どん欲に利益を求め続ける法人の行動が、環境・社会・動物・人を傷つけていることがあります。嘘つきで長期的な関係を続けることが出来ない法人は、人格障害者と変わらないと判断されてもおかしくないそうです。しかし、法に守られ、法によってつくられた人であるが故に犯罪にならず、今日も利益を追い求めています。

映画でも指摘していますが、利益をどん欲に追い求める法人に働く人たちも悪なのかというとそうではありません。法人がもつ独立した人格は、そこで働くひとりひとりの人格を反映しているわけではないわけです。もちろん、彼等の仕事が何らかの形で求められる利益を生み、法人の欲を満たしていることはあるでしょう。劇中でも自分は自分の仕事をしているわけであり、それをきちんとこなすことが重要であると主張している方はいます。それと同時に環境を破壊している企業の CEO は一般市民の声に真剣に耳を傾けている姿もでてきます。時に法人は CEO でもコントロールがきかない化け物になってしまうこともあるわけです。

ドキュメンタリーは利益を求めることが悪だと主張しているわけではありません。しかし、利益だけを追い求める法人という人格にすべてを乗っ取られ、自己中心的に環境や社会を破壊し続けることに警告を送っています。法人のもつ非人道的な人格を抑えつつ、社会活動を初めている企業も幾つか紹介されています。法人と生身の人間との大きな違いはモラリティであり、この違いが企業を人格障害者にさせないための鍵になります。CEO だけでなく、そこで働くすべての人が社会との繋がりを意識しなければ、また法人の恐ろしい人格により組織が乗っ取られる可能性は残されていますが・・・。

ドキュメンタリーではモラリティという高いコンセプトを掲げましたが、これだけで変われるところはそう多くはありません。また、ひとつの企業を人格障害から救えたとしても、法人というシステムがある限り、どこにでも落とし穴があるといっても良いでしょう。法人の歴史は古く、100年前から存在しています。産業革命後に生まれた考え方ということもあり、今の時代には合わないところは少なくありません。ビジネス機関のあり方を根本的なところから『リデザイン』しなければならないでしょうし、法律だけでなく、自己管理も可能でスピードと柔軟性が高いツールセットが求められているのかもしれません。

法人といっても非営利や公的法人もあり、すべての視点を盛り込んで話をするには2時間弱のドキュメンタリー映画では短過ぎるでしょう。営利法人を中心に語られているというのは映画の最初から理解出来るものの、様々なビジネスに存在する独自のシステムや専門的な分野について学ぶ時間もなく次々と進むので理解しきれないところも時々あります(それが映画の早いペースを作り出しているというプラス面もありますが)。しかし、企業で働く人々の視点や学者やジャーナリストも交えたインタビューは非常に興味深いですし、法人という存在を知るためのイントロダクションという意味では良い内容だったと思います。

昔の映像を時折盛り込んで早いカットで話が進むマイケル・ムーアがよく使う手法がこのドキュメンタリーにも採用されており、ドキュメンタリーはあまり見ないという方にも入りやすいペースです。この映画が上映されたのは 2003年で、それ以来変わったことはたくさんあります。社会も人も以前より環境に目を向けるようになりましたし、Web を活用した透明性の高い情報公開を進めている企業も少なくありません。震災や原発など日本だけでも多くの課題が浮き彫りにされている2011年。そこで企業や個人はどう関わることが出来るのか、何を考えていくべきなのか。大きな課題ですが、『ザ・コーポレーション』はそのうちの一部を応えるためのヒントやインスピレーションを与えてくれるでしょう。