モバイルコンテキストの見分け方と注意点という記事で、モバイル機器とそれに触れる人間との間で生まれる文脈を、誰が使っているか・何を使っているか・何処にいるのかの3つに分けて解説しました。しかしこの3つは文脈を理解する上での始まりにか過ぎません。例えば何を使っているか(What)を想定するにしても、ハードウェア、OS、ソフトウェア、そして前回の記事でも指摘した回線速度など幾つかの考慮項目があります。今回は、何処にいるのか(Where)をもう少し深く掘り下げてみたいと思います。

「何処にいるか?」という質問を「電車にいる」「お店のショーウィンドウを見ている」といった場所・地名だけに限定できません。もう少し視野を広げて「何処」という意味を探ることで、モバイル利用者の像がより明確に浮かび上がる場合があります。ここでは「何処」を3つのレイヤーに分けてみました。

文化レイヤー
経済、社会構造、流行など、利用者が住む社会がどのようなものか、そしてそこから生まれて来る価値観(エチケット)がどのようなものかによって、利用の仕方が変わる場合があります
環境レイヤー
光、音、空間、そして他の人との距離など、利用者の周りがどのような状態なのかを示しています。利用者が意識しているかしていないか関係なく、こうした環境の変化が使い方の変化に繋がります
活動レイヤー
歩く、運転する、乗り物に乗る、買い物をするなど人の行動を示します。パソコンでは数多くのアプリケーションと同時に触れる場合があるものの、行動を交えて使うということはありません。何かをしながら使う場合が多いのもモバイルならではの状態です

モバイル利用者がもつ3つのレイヤーをイメージ

例えば電車の発着時刻を調べたり乗り換えに便利なアプリを作るとしましょう。

機能のひとつとして音声ガイドがあると便利なのかもしれません。しかし、駅では大きな音があちこちでするので、ヘッドフォンを使ったとしても聞き難い可能性があります。移動中にすぐ知りたい情報なのでヘッドフォンを使っていない方にとっては手間な作業になりがち。また、日本では電車内でマナーモードにするという考え方が定着しているので、音を鳴らさないほうが良いと考えられます。携帯デバイスそのものを音声ガイドで操作している方にとっては便利ですが、もしそういった方をターゲットにする場合は音声ガイドに機能を絞った見せ方のほうが適しているでしょう。数多くある『機能のひとつ』としての音声ガイドは適していないと考えられます。

それではGPSを交えて最短距離を教えてくれるアニメーション付きのガイドというのはどうでしょうか。駅は人との距離が短く、時間帯によっては密着する場合もあります。常に動き続ける状況が多い中、携帯デバイスのスクリーンに目を向ける時間が多いのは危険を伴う場合があります。GPSも使えると素晴らしいですが、すぐに情報が欲しいが場合、場所取得に時間をかけてしまうことで行動が遅くなることも考えられます。立ち止まれない、人が多いという場には向いていないかもという仮説が立てられます。

日本の電車の発着時刻は実に正確なので、GPS を使わなくても発車時間さえ分かれば目的駅に到着直前にバイブレーションを出すという機能を実装できるかもしれません。音がなく迷惑もかかりませんし、初めての土地へ向かうときは、路線地図と睨めっこしてしまう人も安心して居眠りが出来るようになるかもしれません。

このように、アプリの機能を考えるときに3つのレイヤーを考慮するだけでも、取捨選択がしやすくなりますし、何があると便利に使ってもらえるのかという考え方も変わります。機能だけでなく、インターフェイスの設計にも「何処」に繋がる3つのレイヤーは役に立つでしょう。

パソコンは多くの場合、部屋の一室にある机の上から利用されているので、「何処」の定義はほぼ一元化します。Webサイトを設計する上ではあまり考えたこともなかった項目です。しかし、モバイルになると「何処」の定義をひとつにまとめることが出来ないですし、使い方に大きな影響を及ぼす場合があります。私たちが今どのような社会で、どのような街に住み、どこに居るのかを知ることでモバイル向けのデザインプロセスがより一層深いものとなるでしょう。