共感から始めるデザインの対話

より多くの方にクリエイティブプロセスに参加してもらうために、デザイナーの中には試行錯誤を繰り返している方もいると思います。「自社にUX文化を広めるコツ」という記事でミニワークショップやデザインについて語れる時間を築くと良いと書きましたが、話に参加してもらえない、理解してもらえない、やっぱり自分はデザイナーではないと拒否されるという場合もあると思います。

相手に物事を伝えるために、自分たちのコミュニケーションの仕方を変えるという方法がありますが、それだけではありません。相手がどのような視点で話をしているのかを理解することで次の試行錯誤に繋がることがあります。デザイナーにとってはごく自然なことであるデザイン思考も、他に方にとって途方もなく難しいこと、又は自分たちの考え方とは正反対と考えている方もいるわけです。

人にとってミステリアスで難しそうに見えるデザインプロセスに参加してもらうためにどうしたら良いでしょうか。考えられる課題と提案を幾つか挙げてみました。

根本的に考え方が違うことを理解する
導き出された幾つかの事実から最適の答えを見つけ出し、その答えを忠実に実践することを仕事としている方がいます。そうしなければ仕事にならない方達に対して、「失敗してもいいから、いろいろ作って考えてみようよ」と提案してもピンと来ないのは当然のことです。ここ数年だとアジャイル開発という考え方が浸透しはじめているので、開発側の人にとっては分かりやすい考え方かもしれませんが、他のポジションの方だとどうでしょう
質問の仕方を変える
具体的な仕様や概要から話をはじめると、帰って来る言葉は出来るか出来ないか、又は完成までのステップの話になりがちです。「たくさんの商品が次々とみれる可愛いアプリってどんな感じ?」ではなく「自分も可愛くなりたいと思って買いたくなるお店ってどんなのだろう?」という質問にしてみるとどうなるでしょうか。ちょっとした違いですが、見る視点が幾つも生まれ話も膨らみやすくなるでしょう
描くことも練習が必要
アーティストでなくても誰でも絵を描くことは出来ます。しかし上手に描きたいと思って躊躇したり手が止まってしまうことがあります。特にデザイナーのようにサッとワイヤーフレームや UI のスケッチが描ける人が近くにいるとさらに描き難くなります。四角い箱を並べるだけで簡単のようにみえるワイヤーフレームですら、サッと描けるまでは場数が必要だったりします。気軽に絵を見せ合える場をもてるようにすることもひとつですが、まずは時間が必要かもしれません。必要であれば描くためのセッションを設けたり、Photoshop のチュートリアルをしても良いかも
ユーザー層ではなくひとりの人を意識させるための工夫
「利用者のことを考えて設計をする」ことはデザイナーにとっては簡単かもしれませんが、誰でも出来るわけではありません。「利用者」を想像するということは実はとても難しいことだったりします。ビジネス寄りの人になると、どうしても年齢・性別で大まかなグループ分けをした顔のないユーザーを思い浮かべて議論をしがちです。ペルソナを作るのも手段ですし、写真やビデオ、又はシナリオがあるだけでも、ひとりの人が何を考えどのようにして Web に触れているのかという人視点で考えやすくなります

なぜここまでの努力をしてまで営業、PM、プログラマー、エンジニア、マーケッターといった従来「デザイナー」と呼ばれていない方達をデザインプロセスに参加してもらう必要があるのでしょうか? 最大の理由は、今日のデザインはデザイナーだけでは大き過ぎるからです。技術やビジネスの側面からのインプットが新たなクリエイティブを生む可能性がありますし、最終的な決定力をもつ人間がプロセスの中に参加することでデザインへの理解と全体の動きが速くなります。他分野の人間の参加はデザインプロセスにはもはや必須です。

皆それぞれ「良いものを作りたい」と思っています。ただ、その「良いもの・ゴール」がそれぞれ異なっているのかもしれませんし、そこへの辿り着き方が違う場合もあります。違う考え方をする人とのコミュニケーションは時に衝突を招く場合があります。しかし相手の強みを理解し、彼等の視点に共感することで、自分の弱みは相手の強みによって埋めることが出来ることに気付くはずです。

Illustration by Ahlefeldt-Laurvig

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。