疲れない情報収集と何を知るべきかを知るためのヒント
何を知るべきなのか分からない
昨年「情報だけでは価値がない時代の学びの姿」という記事で、流れの速い今の時代における学習との向き合い方について執筆しました。当時、変化し続けるプロセスに自ら身を投じることで学習しやすくなるのではと提案しました。
まずはアウトプットする、そして失敗を恐れず模索できる場を築くことで、体験しながら学習することができます。私の場合、このサイトやポッドキャストは良い実験場になっていますし、仕事にも役立っています。情報をインプットするためのコストが限りなくゼロになった現在。アウトプット(消化)をすることで情報を知識/スキルに変えていかなければ身にならないどころか、膨大なインプット(情報)によって圧殺されてしまう恐れがあります。
インプットとアウトプットのバランスを保つのが難しい現在。鳥のように食い、象のように糞をしようと思っても実践するのは大変です。また、デザイナーに求められるスキルや責任の幅が広くなってきたことから、何から始めたら良いのかも分かり難くなってきました。つまり何を知るべきなのかを知ることが難しいわけです。
初心者であれば、とにかく何でも吸収すれば良いのかもしれませんが、そこからステップアップするにはどうしたら良いのでしょうか。「自分はまだまだ分かっていない」「分からないことがたくさんある」と気付いたときに、何を学ぶべきなのか、何処へ向かって走れば良いのか明確ではありません。分からないけど、Web へ目を向ければ雨あられのように情報が降り注ぎ、「あれをしろ」「こうしたほうがいい」というメッセージが含まれた『ノイズ』をあちらこちらに目にします。
膨大な情報が喉に詰まった状態になり、苦しんでいる方も少なくないと思います。
逆算して深堀をする
私は国内の一般的な技術情報は積極的に収集しておらず、9割くらいは英語の情報を読んでいます。英語の情報の鮮度と質は高くて良いのですが、アクセスできる情報量も圧倒的に多いのが難点です。それでもデザイン、マーケティング、コードなど多岐の分野にわたって理解と実践が可能なのは、ゴールを明確にした上で逆算的に情報を見ているからかもしれません。
ゴールというのは「今手がけている○○のサイトのコンバージョンを上げるにはどうしたら良いのか」といった具体的なものから、自分が目指している「理想の Web デザインの実践」といった漠然としたものまで様々です。そのゴールを達成するにはどうしたら良いのか、何が必要なのか、なぜ必要なのか … といった具合に徐々にゴールの意味を深めながら情報を集め、学習するように心がけています。
ツールやテクニックは一過性のものが多く、いざ使おうと思ったタイミングになったときには、古いアプローチという場合がよくあります(一過性のものだから Twitter 共有をしているのでしょう)。実践するときは、もう一度検索したり確認することになるので、ツールやテクニックは流し見程度。それより中長期にわたって使える知識やアプローチを「何が必要なのか」「なぜ必要なのか」を意識して吸収するようにしています。
重要なのは Web・アプリデザインばかりを見ないこと。基本的なところは抑えておきたいものの、知っておきたい情報はスクリーンの外にある場合があります。主に以下の分野を見るようにしています。
- 利用者(顧客)の理解
- 心理学といった学問に多少触れることもあれば、人はどのような社会で生活しているのかをみています。世界、アジア、日本、地方などレイヤーは幾つかあります。
- 市場の理解
- ターゲットにしている市場がどのような状況なのか、海外の動きと見比べながら全体像を把握します。市場調査やデータは参考資料程度にみています。
- 技術の理解
- 実践のために必要となる技術の現在。これから先の技術について Web・アプリに限定せずに見ています。YouTube にプロトタイプがよく公開されています。
- 同業者の理解
- 一緒に働いている人、又は業界の人が何を考えているのか、どうしてそのように考えるのかを見るようにしています。対話やデザインを進めるためのヒントになることがあります。
上記の項目には「今すぐ使える」というものが極めて少ないです。ただし、ツールやテクニックに比べて変化が乏しいところから、中長期の知識として残るだけでなく、組み合わせ次第でデザインの提案に繋がったり、他分野の方との対話が円滑になることがあります。
このサイトで「今すぐ使える」情報があまり多くないのも、上記のような考えの中で情報を吸収し、アウトプットしているからといえるでしょう。あまり時間によって劣化しない、半年/1年後でも過去記事が参照しやすいのもそのためかもしれません。
ここを訪れる読者も上記の分野を知りましょうと書いているわけではなく、まずは自分のなかでゴールを築き、それに基づいた情報収集をしたほうが良いと考えています。放っておいても膨大な情報が降り注ぐ現在。最高のフィルタリングは他人や技術に頼るのではなく、自分ですることだと思います。ゴールに基づいたコントロールが『疲れない情報収集』になり、アウトプットをして理解するための余地が少し生まれるのではないでしょうか。