以前から ピクセルパーフェクトなカンプを作ることに意味はないと話してきました。Photoshop や Fireworks のような絵描きツールは、様々は誤解を引き起しますし、ピクセルパーフェクトな世界を作り上げることは、可変で自由自在に変化する Web の世界では不可能に近いです。開発の初期段階でカンプと呼ばれる架空の完成図を作り込むことのリスクは実は大きかったりします。

しかし、それが「Photoshop / Fireworksを使うな」という意味ではありません。

絵描きツールは、ビジュアル面での試行錯誤するときに大変効果的です。指を動かしただけで、すぐに結果が出てくるというプロセスは、コーディングをしてから見るというプロセスに比べると、直感やクリエイティブを刺激し、模索するという気持ちを促進させます。

たったひとつの最強ツールはない

ツールの話で不毛だと感じるのが、「俺のツールは凄くて、君が使っているのは古くさい」みたいな論調になったり、「このツールはこんなに機能があるから使うべき」というスペック話になること。

どのツールが最強かというと、以下 3 つの質問に応えることができるかどうかだと思います。

  • その仕事(タスク)で達成したいゴールは?
  • その仕事の成果物は誰を対象にしており、何が求められているのか?
  • 相手に伝わる最善のコミュニケーション方法は?

実はこれらの質問への回答は、ケースバイケースだと思います。仕事の関わり方はもちろん、伝えたい相手によって変わるはずです。アイデアを模索しているときも、技術検証をしたいときも、ブランドイメージがどう映し出されているのかをみるときも、同じツールによって応えることは出来ません。

そう考えると、 Photoshop や Fireworks のような絵描きツールは、特定の目的で使うほうが良いということが分かると思います。コーディングをするための設計図のようなカンプ作りは避けた方が良いでしょう。なぜなら、それでは技術検証が難しいですし、フィール(感触)や遷移が分からないからです。しかし、特定の箇所のルック(見た目)を最大限まで研ぎ澄ますときに使えますし、仮の完成図としてではなく、一種のスケッチとして捉えるのであれば大きな効果を発揮します。

工夫次第で、ツールで可能なコミュニケーションの幅を広げることができます。例えば、Photoshop では WebZap のようなアドオンを活用することで、短時間でアイデアを視覚化することが可能です。また、Prototypes を使えば、簡易的に静的画像を動かすことができるので、動くスケッチ絵を共有することもできます。これらを使えば、先述したような技術検証やフィールの確認ができるというわけではありませんが、ツールによって達成したいゴールに付加価値を加えることができます。

変化に応じてツールも使い分ける

長々と Photoshop / Fireworks の話をしましたが、私自身も推進している HTML プロトタイプにしても類似の課題があり、唯一無二の最強・最適な手法ではありません。最近は HTML プロトタイプも早く作れるようになりましたし、技術検証や画面遷移など Photoshop / Fireworks では補えない部分に応えてくれるので勧めている人は多いです。しかし、様々な背景の人たちが集まる環境において、万能なコミュニケーションツールではありません。

見た目を通してコミュニケーションが始まる場合がありますし、見た目から生まれる「使いやすさ」「入り込みやすさ」も無視できません。コミュニケーションの作法も見た目から生まれることがあります。こうした項目は、技術検証をしながら徐々に組み立てていく HTML プロトタイプでは見えてこないかもしれません。

今後、どのツールを使うにしても、現状の把握がまず必要になるはずです。以下の質問に応えてみることで、自分たちのワークフローの課題を洗い出してみましょう。

  • オール・イン・ワンで、すべての目的をひとつのツールに任せていないか。
  • 目的に合わせたツール選びではなく、使い慣れたツールに固辞していないか。
  • 作った成果物を補うために、過剰なほどの補足資料をつくることになっていないか。
  • そのツールを使ったことで、誤解は生じたかどうか。どのような誤解だったか。

今後、デザイナーは Photoshop / Fireworks 以外のコミュニケーション方法をひとつは見つけたほうが良いと思います。それらのツールが出来るコミュニケーションの幅は広いですが、やはり限界があります。ツールにせいで自分が伝えたいことが伝わらなくなるのも寂しいですし、ひとつしか伝え方がないのに「相手は分かってくれない」というのも勝手だと思います。その別の方法とは、コーディングだけではありません。ムービーでも良いでしょうし、演技を交えたプロトタイピングもアリです。

ツールを変えなければならないと気負いすることはありませんし、流行しているからといって無理に使うこともありません。ただし、使い方や目的は状況に応じて柔軟に変えていかなければいけません。そもそもツールというものは、特定の方法にだけに使うモノではなく、人が工夫や調整をしながら使うモノですから。