メールがこれからも残り続ける理由

Google Waveは、Web上でのコラボレーションをより効率的に行うための新しいツールになる可能性があります。今までメールでやりとりでしてきたことを Google Wave で代替することで、情報のズレや漏れを防ぐことが出来るかもしれません。Google Wave 以前からも「メールは時代に合っていない。新しい形が必要だ」と言われていましたが、依然メールは仕事においてよく使うコミュニケーションツールですし、様々なデータが添付されてくることがあります。

新しいツールを使わない(使われない)理由として Web リテラシーを挙げる場合がありますが、これも一概にいえません。RSS や Gmail を使いこなしている Web に詳しい方でもファイルはメール添付で送ってくる方がいます。「Dropbox とか便利ですよ」とサービスを紹介してもメールで添付してくる方もいます。その方は Web を基軸にした仕事をしていますし、様々なことに興味をもっていますが、メールから離れることが出来ません。なぜかといえば、メールで「ファイルを手軽に送りたい」という利用者のニーズが満たされているからではないでしょうか。

技術的な隔たりがないメール

メールの素晴らしい点は、オープンスタンダードであることです。誰でも自由にメールアプリケーションを作ることが出来ますし、メールサーバーも立ち上げることが出来ます。そして、新しく作ったメールソフトを利用しても、他のメール利用者と隔たりなく会話をすることが出来ます。プロバイダーを変えても、新たにドメインを取得しても、設定さえすればすぐにコミュニケーションが出来ます。

もちろん、Twitterのようなコミュニケーションツールでも API を公開しているので、クライアントサイドのアプリケーションを作ることは可能です。しかし、サーバーサイドとなるとどうでしょうか。Twitter のようなプログラムをサーバーにインストールしても、他の類似サービスと隔たりなくコミュニケーション出来るわけではありません。

identi.ca のようなオープンソースのマイクロブログプラットフォームは開発されていますが、まだ普及までは時間がかかるでしょう。また、企業では独自のネットワークを作るニーズがあるので、大勢の方が利用しているからといって Twitter を使うわけにはいかない場合があります。

既に使い方が分かっているメール

プロバイダーに入会、大学に入学、企業に入社など、まず最初にもらえるのがメールアドレスです。そして BtoB、BtoC 関係なくビジネスでの主なやりとりはメールで行われています。Facebook は 3億ユーザーいるがいわれていますが、メールはそれよりはるかに上回るでしょう。よくも悪くも多くのやりとりがメールで行われていることもあり、失った情報も、メールを検索すれば見つけることが出来る可能性もあります。

迷惑メールは困りますが、特別なソフトのインストールも必要もなければ、新しいことを一切覚えなくても使うことが出来る点でメールは多くの利用者にとって「十分に足りる」ソストであり、これからも長く残り続ける可能性があります。

メールを超えた姿とは

普及しているからといってメールがベストソリューションかといえば、そうとは思えません。Google Wave はひとつ近いところにいますが、課題も少なくありません。Google Wave が、サーバーにインストール出来るオープンソースプラットフォームを公開すれば、普及へまた一歩近づくでしょう。

Gmail が今までと違うメールの見せ方を提案したように、メールクライアントそのものに新たな提案をするのもひとつの手段です。ひとつ注目しているアプリケーションが Postbox です。一見、普通のメールクライアントと変わりませんが、トピックごとに情報を切り分けたり、添付ファイルやリンクの管理と見せ方が特有でいちはやく情報に行き届きやすい印象があります。人は突然新しい使い方に慣れるわけではないので、Postbox のような提案も良さそうです。

どのコミュニケーション手法が得意・不得意なのかは人によって異なります。「Dropbox が良いよ」と言った私は結局のところ自分にとって効率的かつ得意な手法に過ぎなくて、相手にとって本当に良い方法とはいえなかったわけです。自分が楽に使える方法でコミュニケーションを初めても相手にきちんと届くからこそメールは強力であり、今後も残り続けているのでしょう。メールの代わりになりうるサービスは幾つかありますが、サービスそのものの機能や UI ではなく、API よりスケールの大きいエコシステムの開発を視野に入れる必要はあるのかもしれません。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。