若手・ベテランデザイナー関係なく伝えたかったこと
chot.design という学習サイトで、私のインタビュー記事「「エンパシー能力を高めよ」——長谷川恭久が若手デザイナーに伝えたいこと」が公開されました。誤解なく読んでいただいているみたいですが、補足情報をいくつか書き出してみました。
エンパシーって思いやりとは違うの?
エンパシー / Empathy(感情移入)と シンパシー / Sympathy (思いやり)。英語表記がとても似ていますが、結構違います。デザイナーなら知っておきたい感情移入と思いやりの違いで紹介した動画が一番分かりやすいですが、思いやりは自分の立場で相手を悩みや痛みを捉えることで、感情移入は相手と同じ立場になって悩みや痛みを分かち合うことです。
例えば web サイトの障害者対応も、感情移入と思いやりとでは取り組み方が大きく変わります。思いやりは障害者に対して「可哀想」「大変そう」という視点から何かしてあげようという姿勢になりがち。一方、障害をもって web へアクセスすることを疑似体験を通して発見したり共感することは感情移入になります。 Web アクセシビリティという言葉の捉え方や対応への姿勢もそれぞれ異なると思います。
様々な生き方ができる今だからこそ、自分の物差しだけで解釈したり評価しない姿勢をもつことが今後ますます重要になるので、エンパシー(感情移入)は大切なキーワードだと思っています。
なぜクライアントワークなの?
私は web や UI デザインの仕事につきたいのであれば、デザインツールを学ぶのではなくクライアントワークをしたほうが良いと思っています。ここで言うクライアントワークとは代理店を通すものではなく、決裁者と直接コミュニケーションがとれるものを指します。私自身も学生の頃、行きつけのカフェのホームページを作った経験があります。クライアントワークの良いところは以下の 4 点です。
- 様々な制約のなかデザインをすることが学べる
- 自分視点ではないデザインを考えるキッカケになる
- 走りながら学ぶための基礎体力がつく
- 締め切りがある
最初はタダでも良いので、クライアントワークの経験を得たほうがいと思っています。ちなみにカフェのホームページもタダで作っています(美味しいコーヒーを何度かもらいましたが)。
タダ働きを推奨しているの?
双方が納得した価値の交換がされないのであれば、タダ働きは「No」です。
デザインには Spec work と呼ばれる、詳細が分からないままタダで何かを作る仕事があります(日本でいうコンペに近い)。作るだけではないデザイナーの生きる道 で関連ビデオを紹介しましたが、他の業種では考えられないことが当たり前になっているのは良くないと思っています。作る側にあまりメリットがない関係性は本格的に仕事になったとしても弱い存在になりがちです。
学生や新人デザイナーはもちろんフリーランスで大変なのは最初の仕事を得ること。実績がないと余計難しくなります。なので最初は『時間』という財産を投資して仕事を勝ち取るのも手段だと思っています。
なぜSNSの話をしたの?
今私たちに足りていないのは立ち止まって様々な視点や背景を想像する時間ではないかと思っています。溢れるほどの情報を処理するために「こういうもの!」と決めつけてしまったほうが楽なのかもしれません。わずか数人似たような傾向があっただけで、すべてそうと解釈してしまう私たちがいます。SNS で流れてくる「べき論」や「デザイン系のツッコミ」の大半はそういうもののように見えます。
SNS によって様々な人と気軽に繋がるようになったとはいえ、情報のスピードがさらに上がったことから『決めつけ』がさらに強まったように見えます(さらに決めつけ情報のほうが拡散しやすいというのもある)。こういう状態では、デザイナーとして必要とされるであろうエンパシーを養うことはさらに難しくなります。
SNS を断つというやり方もありますが、使わなくなれば決めつけをしなくなるわけではありません。いろいろな立場、視点、生き方、優先順位のなかで様々なものが作られています。自分が考える想像も小さなものですが、想像するという行為は続けていきたいですし、若いデザイナーには特に意識していただきたいと思っています。
以前 Threadless で掲載されていたシャツの写真
シャツはどこで買った?
私が着ているシャツのいくつかは Threadless で購入しています。インタビューで着ている猫シャツもそこで買ったものですが、現在は販売中止になっています。その理由が元ネタの「キーボードキャット」動画アップロードした作者から訴えられたからとか(当時の記事)。
米国のインターネット・ミームを追っている人であれば「キーボードキャット」は知っているかもしれません。当時はリミックスミュージックや、キーボードキャットを動画の最後に挟み込むのが流行していました。
Threadless で販売されていたシャツもオリジナルの雰囲気をそのまま再現しているというよりリミックスされたグラフィック。夜空に輝く月を仰ぐ猫の姿の元ネタは「The Mountain Men’s Three Wolf Moon」と題したシャツのレビューがバイラルになったのがキッカケ。シャツのレビューとは思えない神秘的なレビューが話題になっていましたが、このシャツの雰囲気にキーボードキャットをくっつけたものが私が着ているシャツになります。
かなりマニアックな組み合わせなので、今まで言い当てた人は 1, 2 人くらいしかいません(片方だけ知っている人はもう少しいましたが)。ただ、分からなくても単純に面白い+可愛いからたまに着ています。
Threadless では販売中止になっていますが、複製品は Amazon などで探すと幾つか見つけることができます。ただ、品質が怪しいのもたくさんあるみたいなので買うのは控えたほうが良いかもしれません。