限定的な課題解決になる受身のデザイン

デザイナーは良くも悪くも、来た依頼に対して最大限の努力をする方が多いと思います。「〇〇の見た目を良くしてほしい」「△△を使いやすくしてほしい」といった課題を解決するには高いスキルと経験が必要ですから、専門家としての価値は出せるはずです。最初は来た依頼に対して解決策を提供する活動でも十分ですが、やることが決まった段階から始めるデザインは制約が多いだけでなく、限定的な解決にしかならない場合があります。

例えば、記事に紐づけるコメントリストをスレッド式に変えたいという要望が来たとします。やるコトが決まった状態からデザイナーが入ると、どうしても「見やすいスレッド」「返信しやすい UI」を考えて作ることが目的になります。

依頼に答えるデザイン活動も重要ですが、これを続けているとデザイナーの仕事が次第に限定的になり、付加価値を提供するという受身の立場になりがちです。

デザイナーは、例えば以下のような問いから本当にスレッド式にすべきか考えるべきです。

  • コミュニケーションをとりたくなるキッカケは何か
  • コメント投稿後に何を望んでいるのか
  • ターゲットユーザーのオンラインコミュニケーションのあり方は
  • コミュニケーションを通してユーザーはどうなっていると望ましいのか

『スレッド』という手段が決まってからこうした問いをしても遅すぎます。デザインだけでなく、手段が決まったあとから始めるリサーチは手段の答え合わせになりがちで、ユーザーの根本的な課題や動機が導き出せなくなる場合があります。

デザイナーとしての仕事領域をどう広げる?

本来、アウトカムから手段を紐解くべきですし、アウトカムを導く際にデザイナーの専門知識が役に立ちます。しかし、来た依頼に対してデザインするという受身の活動だけをしている間は、アウトカムを考えたところで適切な手段をデザインする機会はやって来ません。

長期的な視点をもって一歩踏み出す

受身のデザインは止めることはできないですし、プロダクトマネージャーやステークホルダーも決まった解決手段に対する付加価値を求めていると思います。彼らの期待に応えないまま「課題発見にも関わりたいです」と別のコトを初めても、組織での立場が悪くなる場合があります。また、受身のデザインだけでも多大な労力を注ぎ込んでいるわけですから、新たなことをする時間を確保するだけでも大変なことです。

大変とはいえ、何かしら行動しないと「UX だ」「リサーチだ」「課題解決だ」といっても限定的なことしか出来なくなります。組織によって、手段が決まってからデザイナーが入るべきと考える場もありますし、課題発見や定義や他の人 / 部署の役割と捉えているところもあります。

手段が決まってから入る受身のデザインだけをすることが一概にダメとは言えません。しかし、何もしないままだと与えられた仕事をただこなすだけのデザインチームになる可能性があります。

以前 Twitter で紹介した 組織にある 6 つの UX 成熟度 にも同様のことが言えますが、ひとつ段階を上げるのも至難の技ですし、長期的な視点をもってジックリ前進しないとすぐに停滞します(人が抜けたり変わることで段階が下がることもあります)。

人はそう簡単には変わりませんし、組織だとなおさらです。置かれている状況をいちはやく変えたいと焦る気持ちを抑えて、数年かける気持ちで進めることになるでしょう。また、セミナーやワークショップなどの『イベント』に留めず、一緒に考えたり作るといった歩み寄りも欠かせません。数年かけるという気持ちでいれば、アプローチが変わることがあります。

例えば、プロダクトマネージャーに「一緒に施策を考えませんか?」と声をかけ、明確になっていないユーザー課題について一緒に話し合うというアイデアがあります。短期的な視点だと、そんなゆっくりしてられないと思うかもしれませんが、意味のある活動です。会話を通して、どれくらいの規模と目的でリサーチをすれば見えてくるかもしれませんし、プロダクトマネージャーが何に困っているかも見つかります。

重要なのは「自分だけ」と思っている課題感を「私たち」で共有することです。

「デザインの課題」と捉えるのを止める

いきなり「リサーチをするために何をすれば良いか」「使えるペルソナを作るにはどうしたら良いか」といった手段が目的化したような施策を見切り発車してしまうと、労力には合わない結果になるだけでなく、そのあとが続かなくなります。

課題発見から関わるには、デザイナーの立場でどういう視点と価値を提供できるか、周りにいる人たちが抱えている課題と重ね合わせて行動すると成功率が高くなります。より良いプロダクトをユーザーに提供するには、周りの人たちが抱えるどの課題に取り組むと良いか考えてみてください。