紙の漫画とは違う電子漫画の可能性
先週、集英社の漫画雑誌「ジャンプSQ.」が iPad アプリとして無料配信されました。他にも Yahoo!コミック や eBookJapan のように漫画をたくさん読める場も日本で増えて来ています。iPad は単行本に比べて少し大きいので見やすいですし、文字数が少なくサイズもあるので、雑誌のレイアウトをそのままスキャンしたようなものに比べて読みやすいです。漫画の電子書籍というジャンルであれば携帯電話が先取りしていますが、スクリーンのサイズと独自のインタラクションを加えることが出来るという点で、iPad をはじめとしたタブレット向けの漫画は雑誌より先に広まりそうです。
iPad くらいの大きさ(もう少し小さくてもいいです)が漫画と相性が良いので、そのままスキャンしたものでも、読み難い(見難い)という印象を与えることなく楽しむことが出来ます。ただ、今の漫画は紙という媒体を活用したストーリーテリングをしているものも少なくありません。見開きのインパクトや次のページをめくるという演出がストーリーに躍動感をもたせていることもあります。ある程度のことはインタラクションを加えることで再現出来ますが、ギミックになる可能性もありますし、あくまで紙に載る漫画を作ることが前提なので、iPad のようなデバイスのため作られているわけではありません。
では、iPad のようなデバイスのために作られる漫画とはどういったものでしょうか。それを考える前に、紙の漫画の移植のされ方に注目していきましょう。
先述したようなスキャンしたものが主流ですが、漫画のコマ割りを次々に移動して躍動感を出しているものが幾つかあります。例えば iPad 向けに出ている Marvel Comics がそうですし、7月に劇場公開された『インセプション』のコミック The Cobol Job もそのひとつです。
コマ割りを次々移動するという形式だけでなく、漫画のキャラクターやオブジェクトまで動かしているものもあります。映画『ウォッチメン』の原作はモーションコミックとして販売されています。こちらは漫画を読むというよりかは、ナレーション付きの動画 (映画) なので形式が異なりますが、表現の仕方は可能性を感じます。アニメではないけど、従来の漫画ではない中間のような雰囲気がいいですね。
スキャンした漫画に新たに加えられた価値として
- コマ割りだけでなくキャラクターやオブジェクトが動かせる
- 音を自由に加えることが出来る
デバイス (媒体) の特徴を活かして付加価値を付けることは今後出てくるでしょう。複雑なストーリーや数多く存在するキャラクターについての解説も入るかもしれませんし、共有要素も加わる可能性もあります。こうした付加価値も今後の漫画の進化に大きな影響を及ぼすと思いますが、私が注目しているのはデバイスの特徴を活かしたストーリーテリングの変化です。
先述したように紙に描かれている漫画は紙の良さを活かしています。紙という制限された大きさでどうストーリーを組み立てるかが面白みです。しかし、iPad のスクリーンはコンテンツを載せる『紙面』というより、スクリーンの先を映し出す『窓』のような役割をもっています。つまり、漫画をデバイスの大きさに制限する必要性がまったくないということです。コマ割りを動かす漫画がヒントになりますが、スクリーンに入らないくらいの大きな絵を描いてもいいわけですし、iPad のもつインタラクションを利用して巻物のような長細い1枚絵にした漫画も出てくるかもしれません。
また紙は、ストーリーを「A → B」と一直線で展開するのに最適です。もちろん、様々な場所で『同時進行している』ストーリーはありますが、本当に同時進行しているのを見せているわけではありません(同時進行が完全に把握出来ないから語れるストーリーもありますが)。一直線という流れの束縛から抜け出すことが出来るので、様々なストーリー展開が出てくるのではないでしょうか。
- 複数のキャラクターのストーリーを同時に見れる (映画「Timecode」に近い?)
- ストーリーの進め方によって結末が変わる。ゲームブックのようなもの
- 時系列の中間からスタートして、右か左にページをめくることで時間を進行 (逆行) する
- 季節や読んでいる場所によってストーリー (又は風景) が少し変わる
iPad くらい限られてしまうと読者数が少ないので、なかなかオリジナルで配信というわけにはいきませんが、タブレットで漫画を読める機会が増えてくると、スキャン漫画だけでなく、今までにない体験を与えてくれる漫画が増えてくるでしょうね。
Photo is taken by Philllip Stewart