デザイナー育成のための3つのキーワード

Don NormanEngineering Design Education

Engineers are trained in narrow specialties but do not get the broad systems thinking or the appreciation of human-centered design necessary for engineering design in the 21st century.

2008年なので、少し古い Don Norman 氏のインタビューですが、共感するところが多々あったので紹介。近年のエンジニアや徹底的に狭い分野で技術力を磨いていくものの、広い視野をもって思考できる者が少ないと指摘しています。彼の「エンジニア」という言葉は「デザイナー」と置き換えて考えることができます。複雑な課題に対して「何か」を作る際に、特殊化されたスキルは役に立ちますが、そもそもの課題の解決のプロセスには、より広い視野が必要とされます。

Norman氏は、広い視野を「人」「テクノロジー」「環境」と 3つに分けて、それぞれへの理解がなければ、エンジニアリングはできないとしています。この 3つの領域にはそれぞれ、深い知識・能力をもった分野が存在しているわけですが、問題を発見・解決する人間(デザイナー)が、その深い『溝』に入り込んでいてはいけないということなのでしょう。

「人」「テクノロジー」「環境」を知ることがデザイナーの姿

以前から私は、デザイナーは、ファシリテーター指揮者のような役割を果たすだろうと話してきましたが、重なる考えだと思います。すべての専門分野についてマスターするのではなく、専門家たちがどういう視点で、どのように作るのかを知っているだけでも視野は広がるはずです。

このビデオインタビューは、今のデザイン教育についてどう考えるか?という質問からはじまっています。彼は「今のデザイン教育は酷い」と返答していましたが、私は YES であり NO であると考えています。

デザイン教育は、デザインをどう捉えるかによって、変わるのではないかと思います。デザインを Norman 氏のように問題を発見・解決する人間として捉えるのであれば、改善の余地はあるでしょう。しかし、装飾する人と捉えるならどうでしょう。私はデザイナーを装飾する人と考えるのが間違っているわけではないと思いますし、装飾をするという専門分野は深く掘り下げなければいけないところです。深堀りするには、徹底的にスキルを上げていく、効率化させていくためのノウハウを身につけることは良いことではないかと考えています。

デザインをどう位置づけているかによって、教育のアプローチも変わるでしょう。それでは、広い視野を身につけた問題解決者としてのデザイナーにはどのような教育、又は考え方が必要とされているのでしょうか。

感情移入
利用者への感情移入だけでなく、様々な専門家への感情移入も必要だと思います。彼等がどのように世界を見ているのか、彼等が言う「良い」という言葉にはどのような意図が隠されているのでしょうか。
実験
解決するための方法がひとつだけとは限りません。幾つかの実験を通して、専門家たちがキヅキを与えてくれる場合もあります。プロトタイピングも実験を形にして、対話をするための有効な手段です。
協創
専門家たちと協力してデザインをしていくだけでなく、利用者の振る舞いをいかにデザインへ取り込んでいくのかも、協創的な考え方。様々な人と関わる中で、自分の立ち位置を見つけ出すことが出来るかどうか。

これらは「考え方」ですが、デザインプロセスで使うツールやメソッドを幾つか取り入れることができます。例えば、感情移入であれば、ストーリーボード、インタビュー、アンケート・調査は、感情移入を磨くための有効な手段です。また、ある専門分野のセミナーや書籍をみてみるだけでも、学ぶところが幾つかあります。

Webデザインと教育は、昨年取り上げた話題です。前回は問題点を洗い出しただけでしたが、今回は問題を発見・解決できる人間の育成を、感情移入・実験・共創という3つのキーワードにまで落とし込むことができました。これらのキーワードを基にカリキュラムや議題をつくることで、Norman 氏が「酷い」と言っているデザイン教育の改善に繋がると思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。