コラボがクリエイティブプロセスの唯一の方法ではない
最近読んだお気に入りの書籍の中に Susan Cain の「Quiet: The power of introverts in a world that can’t stop talking」があります。心理学で人の性格をおおまかに Introvert (内向性)と Extrovert (外向性)に分類することがあるそうです。議論に参加したり、自分の意見をしっかり主張するほうが良いという風潮があることから、外向性のある人間になるよう努力すべき、内向性は不利だと考えてしまう方もいるかと思います。著者はこうした考え方に疑問を投げかけ、内向性のもつ強み、そして外向性と内向性のバランスについて書籍で語っています。
TEDでも講演したことがある方なので、書籍は知らなくてもプレゼンテーションは見たことがある方はいるかと思います。
スーザン・ケイン 「内向的な人が秘めている力」
社交的で活動的であることが何より評価される文化において、内向的であることは肩身が狭く、恥ずかしいとさえ感じられます。しかしスーザン・ケインはこの情熱的な講演で、内向的な人は世界にものすごい才能と能力をもたらしているのであり、内向性はもっと評価され奨励されてしかるべきだと言っています。
近年、私が働く Web 系の仕事では、コラボレーションをしよう、グループワークをしようという動きが活発です。コラボレーションがイノベーションを生むなんて言葉を聞くことがありますが、グループワークが一概にクリエイティブな仕事に繋がるとは限りません。外交的要素が強い強力なリーダーが先導することで、最善ではないアイデアが押し通されることもあるわけです。内向的な人間であればあるほど、ひとりの静かな環境でじっくり考えるほうが良い場合もあります。
先月東京で開催された私のワークショップ マルチデバイス化を見据えたコンテンツ設計 基礎講座 では、休憩時間を少し長めにとって、デスクから離れた場所で考えれるようにしたり、グループワークがしたくない方はひとりでワークして良いということにしました。これによって良いアウトプットが出たかどうかは判断しにくいですが、それぞれの好みで講義の内容を消化する時間があるのは良いことだと持っています。
上図は Better together; the practice of successful creative collaboration から抜粋したものです。クリエイティブプロセスにおけるコラボレーションの基礎について書かれた記事で、ここでもひとりで行う作業の重要性について書かれています。重要なクリエイティブの決断はプロジェクトメンバー全員で行うものの、詳細は個々に委ねてそれぞれが仕事します。
内向性と外向性のいずれかが優れているわけでもないわけですから、それぞれの特徴が活かせるバランスのとれた環境を作ることが大切だと思います。
例えば日本マイクロソフト社のオフィスは、固定の座席をもたないフリーアドレス性ですが、ひとりでじっくり働きたい人のために個室も用意されています。これも様々なタイプの人に合わせて仕事環境を築くためのひとつの配慮といえます。オープンな環境で人と話し合いながらほうが仕事が進めやすいという人と、そうでない人それぞれが気持ちよく働ける環境です。
デジタルハリウッド大学院でプロトタイプの授業をしたときも、内向的な生徒への配慮をどうしたら良いのかいつも悩んでいました。それもあり、個人ワークとグループワークの2つを用意したわけですが、他にも何かできたかもしれません。
コラボレーションやグループワークが正しくないとは思っていませんが、それだけが今後のクリエイティブプロセスの姿ではないと考えています。2013年3月現在、「Quiet」は訳本が出ていませんが、出版されたらぜひ読んでみてください。今までと少し違った視点でクリエイティブプロセスについて考えることができるはずです。