デジタルは色あせないのか

素晴らしいデザインは時代を超えて色あせないなものだと言われています。

建築、産業デザイン、グラフィックデザインなど、色あせないデザインは分野を問わず今でも「良い」と思えるものばかりです。デザインされた当時の社会背景や作り手の想いがタイムカプセルのように詰め込まれているわけですから、時代を感じずにはいられないはずです。しかし、それでも時を超越した魅力があるわけですから不思議なものです。ディーター・ラムスのようなモダンな製品は色あせないと言われますし、ルイ・カーンのような禁欲的でありながらも、テキスチャを大事にした建築も同様に色あせないデザインと言われることがあります。

デザイナーであれば、色あせないデザインをつくりたいと思うでしょうし、それをひとつの目標としている人もいると思います。

しかし、Web をはじめとしたデジタルデザインはどうでしょう。Apple のホームページを見ても分かるとおり、わずか 5 年前でも古臭くみえます。毎年、ファッションのようにトレンドが表れては消えていくデジタルデザインの世界で、時代を超えて使われるデザインは存在するのでしょうか。そもそもそれは可能で、人々はそういった普遍的なデジタルプロダクトを必要としているのでしょうか。

その瞬間をデザインする

他分野のデザインとデジタルデザインの大きな違いは、デザインするための素材にあります。

建築やエディトリアルデザインなど、一度デザイナーの手から離れてしまえば、もう戻ってくることはありませんし、変更することもできません。印刷した後に「ここを直したい」と思っても直すことができませんし、多彩な読者の要望に柔軟な対応をすることもできません。紙や石といった物理素材は、ある形にしてしまえば、それが最終型であり、変更することができないわけです。

それに対し、デジタルは最終型が存在しない流動的な存在です。素材を何度も壊しては創るというプロセスを繰り返すことができますし、利用者の環境や趣向に柔軟に対応することも難しくありません。まるで、使い捨てのように表れては消えていく Web サイト。しかし、それはデジタルならではの特質からなのかもしれません。

変化することのない素材をつかって、後戻りがない緊張感の中から創られるデザイン。素材そのものは時間と場所に制約があるのにも関わらず、色あせないデザインが生まれる可能性を秘めているアナログデザイン。素材事体は場所も時間も超えることができるはずですが、すぐ古臭く感じてしまうデジタルデザイン。

膨大な時間と情熱を注いで創っているわけですから、デジタルデザインが劣っているということはありません。しかし、色あせないデザインがほとんど見られないだけでなく、跡形もなく消えてしまうことすらあります(デザイナーのコンピュータにバックアップはされていると思いますが)。デザイナーの中でも「はやく作り直さないと」焦る人もいるかと思います。

流動的なデジタルの世界でデザインするということは、根本的に他の分野のデザインと異なるマインドが必要になります。

未来を見ながら今をデザイン

常に変化し続ける Web の世界で時代を超えたデザインをつくることは大変難しいです。サイト・アプリの原動力となるテクノロジーは常に進化しているだけでなく、人と Web との関わりも変化し続けています。技術も環境も人も変化し続けているわけですから、私たちが作る Web サイトやアプリも変化し続けて当然なのかもしれません。

デジタルデザインにおける「色あせない」は、私たちが作るモノ自体にあるのではなく、作ったモノと人との関係によって生まれるのではないかと考えています。

いつまでも同じ形であり続けると、変化し続ける利用者環境やニーズに合わなくなり、関係・体験は良くない方向へ向かうでしょう。色あせない関係を保つために、形を少しずつ変えていく必要があると思います。変化を続けることは、捨て続けているのではなく、利用者との関係の維持のためにあるのだと思います。

変化し続けることが前提であるデジタルデザインだからこそ、今この瞬間のトレンドや市場ニーズに応えることができるのかもしれません。しかし、変化があるからこそ、未来を見据えた設計が必要ですし、過去の経験やデータを繋げることができるデザインでありたいと考えています。Webサイトのリニューアルにしても、気分転換を理由にすべてを壊して作り直すのではなく、改善を繰り返しながら少しずつ変えていくほうがデジタルらしいデザインプロセスといえますし、少しずつ変化を続ける企業サイトも増えてきました。

変化を認め、変化を楽しみながら作り続けることが、デジタルでのデザインの本質。手で触れることができない無形のモノだからこそ、私たちが目指すデザインのゴールも目では見え難い関係性や体験なのかもしれません。他分野と少し違うかもしれませんが、デジタルにもきっと色あせない何かがあるはずです。

【追記】この記事に続くかたちで、@noriyo さんが「これからのデジタルデザインに望む3つの(IA的)キーワード」という記事を公開しました。IA の観点で 3 つのキーワードが掲げられていますが、Web デザインにおける基礎的な考え方なので要チェック。