iPadは第五のスクリーンになれるか
発表前に eBook や電子出版の噂が飛び交いましたし、実際 iBooks という専用アプリケーションがあることから、iPad と出版業界の今後をテーマに書かれている記事が多いです。書籍フォーマットは XML/HTML ベースみたいですし、iPad 以外のデバイスでも同じ本が読めそうな期待が出来きますが、iPad はもう少し大きなビジョンをもったデバイスです。iPad は今までになかったスクリーンの提案をしようとしています。
第五のスクリーンが現れるか
「メディアの消費の仕方の変化」という記事で、メディアの消費の仕方が大人数から次第に個人の体験へと変化しているということを書きました。映画という巨大スクリーンからテレビ、パソコン、そして携帯電話へと、私たちが見るスクリーンのサイズも小さくなっていきました。スクリーンと人との関わり方は変化してきましたが、進化の果てに小さな携帯電話のスクリーンになっているわけではありません。他のスクリーンでは提供出来ないコンテンツや体験を提供出来る強みを活かして、それぞれが共存しています。
形からして iPad は今まで出て来たどのスクリーンにも当てはまりません。本をスクリーンで読むでは留まらない iPad は、今まで他のスクリーンでは出来なかった役割を果たすことになるでしょう。つまり、今までのデバイスとは全く異なる、新しいスクリーンの形を提案しているわけです。
今までスクリーンは次第に個人のものへと変化していきましたが、iPad のようなスクリーンはさらに個人へ進むのではなく、繋げるという役目を果たすでしょう。スマートフォンの登場で、既にパソコンと携帯電話という2つのスクリーンはシームレスにデータのやりとりが出来るようになりましたが、繋がり始めたばかりです。テレビだけでなく冷蔵庫やエアコンといった家電、そして私たちの健康状態など様々なデータを繋げる役目を iPad は果たすのかもしれません。
WiFi Scaleのように、すでに iPhone と繋がっている機器があります。去年の暮れから今年に入ってようやく iPhone と家電が繋がりはじめましたが、iPad の登場でさらに増える可能性があります。
データを携帯電話やパソコンで見れるのは便利ですが、iPad のようなデバイスで見れたらどうなるでしょう。カロリー計算や運動のデータを繋げたり、レシピサイトで最適なメニューを探すときのデータとして使えるかもしれません。iPad でまとめたり情報を探した後、携帯電話をもって出かける。データはサーバーか自宅のパソコンへ蓄積するといった別の広がりも考えられます。電気消費量もパソコンをわざわざ立ち上げて見たり、携帯電話のような小さな画面で見るより、iPad で見るほうが自然かもしれません。PowerMeterとか iPad で見るにはちょうど良い情報だと思うわけです。
今まで仕事やエンターテイメントを繋げてきたパソコンと携帯電話のスクリーンですが、iPad は生活を繋げるデバイスのひとつの形といえるでしょう。
すべてが繋がり始める
iPhoneの例をみても分かる通り、Appleは基本的にクローズな開発環境なので、上記のようなことを実現するのは現時点では難しいでしょう。Apple側も iPhone より積極的なオープン化に動く可能性があります。基本的に iPhone と同じ機能をもつ OS が実装されているものの、独自性も多少出てくるかもしれません。ネイティブアプリにしなくても、Webアプリで十分なサービスも少なくありませんし、Webアプリのほうが相性が良いサービスもあると思います。
iPhone がアプリによって魅力的なデバイスになったと同様、iPad もアプリにかかってきます。しかし、今回ちょっと違うのはアプリ自体のデータをどれだけオープンに出来るかも重要な課題になっている点です。アプリとアプリのデータをシームレスに利用することが出来れば、今までなかった価値観や使い方の提案も出来ます。また、パーソナルダッシュボードみたいなのが iPad のスイッチを ON にしたときに表示される・・・みたいなことも出来そうです。
足りない機能や不満点もありますが、それは今後ソフトウェアアップグレードで補えることです。第5のスクリーンのスタンダードに iPad がなるのかどうかは分かりません。もしかすると失敗に終わるのかもしれませんが、少なくとも今までありそうでなかった「繋げる生活デバイス」のプロトタイプを作ったという意味で興味深い製品です。