The Times Screenshot

有料コンテンツは成功しない?

イギリスの新聞サイト The Times は、6月から 有料サービス を開始し、記事の全文を読みたい場合は会員登録をしなければならないようにしました。その結果、2月のアクセス数に比べ 90% も落ちたそうです (詳細記事)。外サイトからリンクを辿ってアクセスした際は、自動的に登録ページへリダイレクトされるように設定されており、そのうちわずか 25.6% が先に進んでサイトを観覧したそうです。値段だけでなく、やり方も不味かったと思いますが、これは大打撃といえるでしょう。

The Times は 15,000 の有料会員を獲得したので、一概に失敗例とは呼べません。成功・失敗をどう定義するかは難しいですが、近年国内外の新聞社が積極的に有料コンテンツを開始しているのは事実です。大手だけでなく地方新聞も有料サービスを開始しており、こちらの表でどの新聞社が開始しているのか見ることが出来ます(USのみ)。紙の新聞の配布数と共に広告収入も落ちるわけですから、別の収入源を探さなければ運営が難しいです。現状、紙の新聞の収入に頼っている部分が多いわけですが、Web ではバナー広告以外の決定打がなく、有料コンテンツ化を試みるものの The Times のように極端にアクセス数を落としてしまう可能性があります。

「支払う」ということをもう一度考えてみる

有料コンテンツは上手くいかないと考えるのは容易ですが、実は有料にしているコンテンツそのものが良くないのではないのではく、ビジネルモデルや配信モデルが今の Web の利用者とマッチしていない可能性があります。ここで幾つか考えておきたいポイントを紹介します。

マイクロペイメント化

現状、Web の有料コンテンツの値段の付け方は紙の新聞に似ています。Web サイトをひとつのパッケージとみなし、毎週/毎月購読するための権利を支払うわけです。新聞サイトへの接点がソーシャルメディアによって増えてはきましたが、ひとつの新聞社のニュースに限定して観覧することはまずないので、値段が高く感じてしまうのは無理はありません。

そこで、観覧した記事の数で支払うマイクロペイメント方式が最適です。記事の観覧した分だけ翌月に支払うといった形もありますし、クレジットを購入するという手法もあります。

支払のシステムもより簡単でなくてはいけません。自社で開発しなければならないと考えず、iTunes を介したり、お財布携帯を使うといった方法でも良いと思います。もちろん、数パーセントの手数料を支払わなくてはいけませんが、自社で開発・維持・管理の費用を考えると安全で長期的なコストも抑えることも出来ます。利用者にとってなじみ深い支払い方法であればその分チャンスも増えるでしょう。

プラットフォーム化

ウェブらしい新聞サイトのあり方とは」という記事で、新聞サイトはサービスプロバイダーになるべきと書きました。新聞サイトにあるコンテンツを売るという考え方から、コンテンツの配信の仕方にお金を支払ってもらうという考え方へのシフトです。iPhone / iPad 向けにアプリケーションを開発して販売している新聞社があるのがその一例といえます。他にも新聞のコンテンツを読める場所はどんどん増えていきます。求めている方に対してどのような新聞体験を提供するかは、今後のサービス展開における鍵といえるでしょう。

プレミアム化

紙の新聞と人の関わりはどういったものでしょうか。家族や地域が特定の新聞を購読し、それを読み続けるといったことは普通にあります。こうした絆にも近い読者と新聞との関係は Web にはあまり見かけませんが、全くないわけではありません。たった数秒見て去って行く数百万人のユーザーより、従来の新聞と人との関わりにあったような切実な関係を保てる読者を見つけ出すほうが有料化には欠かせません。

有料コンテンツを支払う読者の数は少ないでしょう。しかし、よりフォーカスされているという意味では広告が出しやすいというメリットがありますし、彼等のニーズに応えたサービスを充実させることでより強い関係を築くことが出来ます。ここでいうより強い関係とはさらにお金を支払ってくれるという可能性も含みます。コンテンツの有料化という視点ではなく、特定の読者に対する特別サービスのための有料化といったところでしょうか。

黙認も成功につながる

有料化でよく出てくる課題が、無断転載や、プロキシを使うなどをして勝手にアクセスする人をどう取り締まるかというもの。確かにこれらは問題と呼べますし、これらが理由でなかなか有料化に踏み出せないという企業もあるでしょう。しかし、制限・コントロールのために莫大な予算をつぎ込むのであれば、その資金で別のサービスを立ち上げるほうが生産的です。過剰なコントロールが結果的にきちんとお金を支払う方にも迷惑をかけてしまう可能性があり、それが有料会員を遠ざけてしまう(支払わなくなる)ことにもなりかねません。

何でも OK というのではなく、ある程度のことは黙認してしまうのは発展途上の状態の今にはあるべき姿なのかもしれません。初期の YouTube と企業の関係にしてもそうですし、音楽配信にしてもそうです。まずは、外に放ちたくさんの方にコンテンツとサービスを見てもらうことが有料サービスへ繋がることもあるわけです。

先述した有料化への3つの可能性だけでなく、すべてを有料にしてしまわず部分的な無料コンテンツ配信の仕方も考えられます。たとえコンテンツを有料化にしたとしても、外部サイトのリンクを辿ってみた最初のページは無料にして次に続けて見たい場合は有料にするといった柔軟性のあるシステムも作れなくはないはずです。有料の壁をサイト全体に作って囲いこんでしまうとアクセス数は極端に減るだけでなく有料化に興味がある人をさらに遠ざけてしまうかもしれません。ここでもコンテンツの有料化ではなく、サービスの有料化という視点が役に立ちそうです。

恐らく今のような「コンテンツを有料化」にしたサイトの囲い込みモデルでは先はなさそうです。当然モバイルもそうですが、情報が様々な場所へ行き来し、誰もが膨大な情報に触れることが出来る Web では、ひとつの場所を囲い込んで使ってもらうという形ではマッチしないでしょう。システム的な問題だけでなく法的な課題も出てくると思いますが、情報を今までのように自由な状態にしておきながら、支払ってもらうためのキッカケを作る必要があるでしょう。

Photo is taken by Eivind Z. Molvær