ニュースサイトと新聞サイト

インターネットの普及をはじめ、メディアの多様性が進んでいるが、我々3社は新聞こそが最も信頼性の高いメディアであり、今後もそうあり続けたい

新s(あらたにす)の記者会見に出て来たことばです。この言葉が Web に対する意識のズレを表していると同時に、これから良くなるかもしれない希望も隠れているような気がします。

ニュースサイトならではのウィジェットを考える」で書きましたが、新聞の読まれ方とニュースサイトの読まれ方は違いますし、読者との関係も違います。異なる媒体なわけですから当然のことです。媒体がもつ独自の良さを、別媒体に移行したとしても、それはギミックにしかならず、扱っている媒体の良さを最大限に活かしているとはいえません。

ポッドキャストで種村さんと対談したときに、彼が興味深いことを言っていました。

本の魅力を Web へもってくるために、ページをめくるという行為を Flash を使って再現するというのを見かけますが、そういった表面的なものではなく、本には独自の魅力が他にあると思います。

Web という媒体における独自の魅力や使い方については後回しにし、まず表面的な新聞の特徴を Web にもってくることを優先した結果が今の 新s(あらたにす)かもしれません。機能というのものは運営しながら増えて行くので、機能が足りないという点は気になりませんが、もしサイトのコンセプトが「新聞の体験をそのまま Web へ移行する」だとすると、機能やコンテンツが増えても何かしらのズレを感じるでしょう。

新聞の魅力をもったニュースサイトへ

新聞の魅力を Web で表現するのが 新s(あらたにす)のコンセプトのようですが、同時に3社がもつニュースサイトの活性化に繋げたいのでしょう。Alexaでここ6年間のニュースサイト3社のアクセスをみてみました。

Alexa のデータ

これをみると、2006年初頭をピークに下降しています。興味深いのがアクセス動向が3社がほとんど同じところですね。もちろん、Alexa のデータが正確とは言い切れませんが、恐らく現在はピーク時ほどアクセスされていないでしょうし、てこ入れとしての役割も 新s(あらたにす)にはあるのかもしれません。

では、3社の最新記事を並べることが活性化や新聞の魅力を引き出すことに繋がるでしょうか。夕刊/朝刊のような新聞的な構成にすることが新聞の魅力なのでしょうか。恐らく新聞の魅力は『編集力』にあると思います。これは雑誌やニュース番組にもいえることですが、過去のアーカイブも含めて様々な情報を吟味して構成・掲載しているところが新聞の良さではないでしょうか。いかにも Web らしい自動生成ばかりのコンテンツではなく、新聞がもつ編集力がサイトにも反映されてほしいなと感じています。

単なる最新情報ではなく、その情報にどういった意味が含まれているのか、どういった経緯で今の出来事が起こっているのかの説明がされているからこそ、新聞はおもしろいと感じるのかもしれません。ただ、紙という制限のあるスペースでされている説明なので限界もあります。スペースに制限がなくマルチメディアを思う存分利用出来るのが Web の魅力なので、新聞では十分に出来ない「今の出来事の意味」を Web で説明してほしいです。プロフェッショナルによる分析も含めて、表面的な情報配信以上のことが出来るのもメディアとして長い歴史をもつ新聞の強みだと思います。

新聞とニュースサイトを別けて考えるというよりかは、今のニュースサイトの質をさらに上げてもらうために新聞の強みを導入して欲しいと感じています。そのきっかけが 新s(あらたにす)になれば、今後日本のニュースがおもしろくなってくるでしょうね。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。