デザインが伝わらないシンプルな理由

デザイナーが「課題解決する人」より「感性を活かしてモノ作っている人」というイメージが先行してしまうのも、私たちの伝え方が同業者同士とそれ以外と関係なく同じようにコミュニケーションしているからかもしれません。

ぬるま湯の会話が生む勘違い

デザイナーだけに限った話ではないですが、クリエイティブ職の方との会話が楽なのは、感覚的なところもスッと通じ合えるところだと思います。見せるだけで「そうだよね!」「ちょっと違うよね」のような会話が始まります。こうしたコミュニケーションはひとつの理想ですが、言い換えると『ぬるま湯』です。気持ちが簡単に伝わるコミュニケーションだけしていると、それが当たり前と勘違いするだけでなく、周りが理解しないことに不満を抱いてしまいます。

例えば、何も文脈を共有していないまま以下のような言葉でデザインを説明しても伝わりません。

  • 信頼性
  • シンプル
  • ブランドに合う
  • 使いやすい
  • かっこいい
  • かわいい
  • 感情に響く
  • エモい

デザイナー同士であればこうした言葉ですんなり伝わってしまうので、ついつい使いがちです。しかし周りからすればこれらはユルフワな表現で、何が言いたいのか分かりません。「信頼性」という言葉はよく使われますが、以下の質問を説明できなければ個人的な感覚に過ぎないわけです。

  • そのプロジェクトにおいて、なぜ信頼が重要なのか
  • 信頼とは何に対する信頼なのか
  • 信頼を獲得することによって、どういう行動・感情が生まれるのか

こうした疑問に答えることができずに「信頼性のある青を選びました」という表層の説明をしても、聞き手は「感覚的な良し悪しの話?」と受け取ることになります。デザイナーが「課題解決する人」より「感性を活かしてモノ作っている人」というイメージが先行してしまうのも、私たちの伝え方が同業者同士とそれ以外と関係なく同じようにコミュニケーションしているからかもしれません。

プロとしてのプレゼンスを

感覚・感情でデザインするなと言いたいわけではありません。むしろ、それは欠かせないですし、デザイナー以外の方にも見せるだけで意図が伝わるタイミングもあります。デザイナー同士の会話であれば、むしろどんどんエモくなっても良いかもしれません。

ただ、同じ感覚とノリはデザイナー以外の方との対話では通用しません。デザインの理解が表層的なところで止まっている方は「感覚だけで好きなように絵を描いている人」と捉えています。自分たちはビジネスに直結するための成果が求められているのに、なぜデザイナーは好き勝手に『クリエイティブなこと』をやっているのか?と疑問を抱く人もいるかもしれません。

デザインのことを伝えるとき、言葉遣いが自分中心になっている場合があります。相手の立場や文脈などを考慮しなければいけないはずが、自分たちの『気持ち』を伝えているだけになっていたとしたら理解されないのは当然です。感覚だけで話していると思われると感覚で切り返されても何も言えないですし、「自分でもできる」という印象を与えてしまいます。

1 ピクセルのコダワリや納得いくまで表現を磨き込むことは重要ですが、それらはデザイナー以外に方にとって知っても知らなくてもどちらでも良いことです。それらを伝えたところで自慢話にしか聞こえないかもしれません。デザイナー以外に伝えなければならないことは、その時間をかけることがどういうメリットや効果が生まれるかです。私たちデザイナーが行うすべての活動が売上に直結するわけではありませんが、時間をかけることに意味があることを「コダワリたいから」以外の説明が必要になるでしょう。

私たちが何気なく使っている言葉には「知っている人同士だから分かる気持ち」という前提があります。そういう場を作り、広げるための施策が必要なタイミングはありますが、内向的な伝え方を変えるところから始めるべきです。自分たちが日々何気なく使っている言葉を振り返り、その言葉の意味を少しずつ解体してみると伝え方のヒントが見つかるはずです。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。