情報の流れの変化を意識したウェブ戦略
左にあるスライドは、私がよく講演で使う図です。1つ目のスライドが今まで利用者が Web サイトへアクセスしてたのが、Web サイトの情報が直接利用者のほうに届けられるようになったということを示しています。例えば RSS のような情報をポータブル化出来る技術がそうですし、Netvibes のようなマイページと呼ばれる種類のサイトもそうです。
2つ目のスライドは、Web サイトへアクセスしなくても人が集まるところに情報が届けられていることを示しています。そして、その情報が多くの人々によって共有されたり、コミュニケーションのきっかけにもなっています。Facebookで企業が情報配信しているのがひとつの例でしょう。Compete Inc の調査によれば、Web サイトへのトラフィックは Google より Facebook からのほうが多いそうです。Pew Internet Research のレポートでは、アンケートを受けたアメリカ人の 75% がメールや SNS 経由でニュースを読んでいるそうです。
Facebook や Twitter のようなソーシャルメディアを利用して、自社サイトへ誘導するという形式は随分前からされていますし、人々の情報の入手の仕方を反映したアプローチです。少し違う試みとして AP が Twitter からの誘導を自社サイトではなく Facebook にしています (TechCrunchの関連記事)。3/4日現在、1万人以上のファンがいる AP の Facebook ページでは、記事の概要が読めるだけでなくコメントも書き込めるようになっています。読者・顧客との関係作りを自社サイトで行うのが難しい場合、Facebook のような場所を使うのはひとつの手段です。
もうひとつ変わった例としてマイコミの連載で紹介した広告代理店 Boone Oakley のサイト。彼等は従来のような『公式サイト』を持たず、すべて YouTube のビデオで完結しています。アノテーション機能を利用して複数のビデオをリンクして動く Web サイトを YouTube 上で再現しています。自社アピールをしやすいところにサイトを設置されている点がおもしろいですし、話題になればアクセスも増え露出するのでこうした方法にしたのでしょう。お問い合わせは Twitter というところも今風といったところでしょうか。
従来自社サイトへ利用者 (顧客) を誘導してそこでコンテンツを楽しんでもらう場合が多かったです。SEO を考慮したサイト設計を行い、プロモーションや広告を行ってサイトにアクセスしてもらう。そんな流れがあったと思いますが、今では何処からでも自分たちのコンテンツへアクセス出来るようにしており、サイトに訪れてもらう目的も変わりつつあります。利用者がサイトへ行くのではなく、サイトの情報が利用者のもとへ向かっています。
パンフレット型Webサイトの終焉
企業紹介、サービス/製品紹介、お問い合わせが掲載されているだけのパンフレットのようなWebサイトは、最近の利用者に対して価値を与えているとはいえません。ブログを設置するのも手段ですが、まず何かコミュニケーションをするための窓口と、利用者にとって有益な情報を配信するためのチャンネルがどのサイトにも必要です。コンテンツをまとめて Web サイトとして仕上げるのではなく、コンテンツの発行・配信するための仕組みをどう作るかが鍵になります。ブログのようなシステムを組み込むのも良いですし、外サイトに自社チャンネルを設けてそこでコミュニケーションをとるのもひとつです。Web の何処かにいる利用者のもとへ情報を届けるための方法は幾つかあるので、すべてやらなくても少しずつすれば良いと思います。
極端にいえば、利用者にリーチする方法と届けたいコンテンツさえあれば自社サイトをもつことが必須条件ではないということです。ホンダは従来からあるようなプロモーションサイトの制作を止め、Facebook に集約しはじめています。TV 広告も Facebook のファンページ URL を記載しているそうです。
企業は Web サイトの制作コストを削減して、より効果的に顧客へリーチ出来るかといえば一概にそうとはいえません。ブログをされた方は分かると思いますが、一度始めたらなかなか止めるわけにはいきませんし、読者を常に意識してコンテンツを作るということは大変な作業です。また、顧客と直接コミュニケーションをとらなくてはいけないだけでなく、レスポンスのスピードも要求されます。顧客関係を築くのはバーチャルだからすべて効率的に行えるわけではなく、より人間らしさが必要とされるのかもしれません。
Web サイトを作る場合でもランディングページの設計、そこからゴールへの導線などトップページより下階層の設計が今後さらに重要になってくるでしょう。利用者や検索エンジンで直接ページへアクセスするだけでなく、人々の会話やレビューなどの情報をもとに訪れるパターンが増えていきます。特定の情報を探し求めているという意味では検索と変わりないですが、彼等が求めているもの、期待しているものが検索している方と少し異なる場合があります。それをどうサイトで補うことが出来るかも今後の課題でしょう。また私たちはよく Web を利用しているわけですから、その知識と体験を基に「こういうコミュニケーションのとりかたはどうか」という提案も出来るようにもしておきたいです。