デザイン人類学について知る
これからの IT を考えるにおいて、単に技術や刺激的なビジュアルだけでなく、社会科学への知識がより重要になってくると思います。最近読んでいる書籍や資料、そして考えていることも Web におけるデザインの役割と人間関係ついてが多いかもしれません。しかし、社会科学といっても大変幅が広いですし、それとデザインを関連付けさせるにはハードルも多いかもしれません。そこでヒントになるのが「The Ten Faces of Innovation (訳本)」に書かれている 11人の必要とされる人間像。その中で紹介されている『人類学者 (Anthropologist)』は人とデザインをつなげる重要な役割をもっている存在です。
ちょうどそんなとき、Adobe Design Center で Design Anthropology (デザイン人類学) の助教授をしていらっしゃる Dori Tunstallさんが執筆した「Design anthropology: What can it add to your design practice?」が掲載されました。この記事で、Tunstall さんはあまり聞き慣れないデザイン人類学についての説明と課題について紹介しています。プロダクトデザインでは既に人間の行動や態度などを観察・分析して、完成品に反映させることがありますが、Webデザインにおいても似たようなアプローチが必要になってくると思います。年々 Web と人との距離は縮まってきていますし、利用している人たちを考えないで作ることがむしろナンセンスといえるでしょう。
人類学という言葉を聞くと、生物学や民俗学みたいなものを想像する方もいるかもしれませんが、文化人類学のように現代社会と密接に繋がった分野もあります。では、今の Webデザインプロセスにどう人類学が関わってくるのでしょうか。
例えば、ユーザーテストをした際、サイトがどのように見られ、どう移動したのかをデータとしてまとめることがあると思います。このとき、人類学的なアプローチも加えるとしたら、性別、出身地、年齢に分類して調査することもあるでしょうし、場合によっては利用者の背景(生い立ちや趣味・趣向)を考慮した調査も行うこともあるでしょう。結果として現れたデータの「なぜ」をサイトに向けるのではなく人間に向けて考えるのが人類学的なアプローチなのかもしれません。
人類学的なアプローチが万能ではなく、調査をする際に課題になってくる点も幾つかあります。Tunstall さんの記事によると以下の 4つが課題点になるそうです。
- 氏か育ちか
- 遺伝なのか育ってきた環境で人は特定のやり方で反応するのか
- 進化
- 物事がどのように拡張し変化しているのか
- 本質と外面
- 価値観によってかそれとも環境や状態で特定の態度を示しているのか
- 社会的事実と新しい価値
- 人々のインタラクションによって生まれた価値なのか、もしくはそれを超越したものか
もちろん、専門分野として人類学を深く追求していくことはデザイナーや開発者には難しいです。しかし、デザインプロセスにおいて、人類学的な考え方を意識して作るか作らないかには大きな違いがあります。外観はひとりの人間がひとつの Web サイトを見ているに過ぎないですが、見ている人はその人の世界があり、直接的・間接的に社会と繋がっています。その見えない部分を意識出来るかは、何か新しい Webのサービスを作るときも、Webサイトを作るときの最後のひと工夫を加えるときのきっかけになるような気がします。
とりあえず、anthodesignというデザイン人類学に特化したグループに参加してみたので、また何か興味深い情報があれば、この場で共有しようと思います。