デザインとは交渉すること

デザインという名の正義を翳すのも良くないですが、ただ相手が言うことを素直に受け入れることも良いわけではありません。お互いが納得できる歩み寄りができる交渉がデザインには欠かせません。

受け身のままでは後退する

長くキャリアを積んだとしても、時に「デザインとは?」という疑問が頭に浮かび上がります。様々な定義がありますし、文脈や状況に応じて正解といえるデザインが変わると思います。私が携わっている web サイトやアプリケーション(デジタルプロダクト)という観点からデザインを捉えると「デザインは交渉すること」だと思っています。

ユーザーの立場・視点を想像して、質の高いプロダクトをデザインしたいと考えるのは良いですが、その想いをそのまま周りに伝えても理解されません。デザイナーが考える「質」は、その職域に携わる人独特の視点であることは多々ありますし、技術制約やビジネスゴールを考慮するとコスト高という場合もあります。

だから諦めましょう … ではないからこそ交渉する必要があります。デザイナーは与えられた課題に対して解決案を作るといった受け身の仕事になりやすいことから、指示・注文・提案も素直に受け止めてしまうことがあります。「○○してください」は絶対やらなければならない指示ではなく交渉する機会と捉えるべきですが、何もせずに手を動かし始めてしまう。これでは実現したいデザインから次第に遠ざかってしまいます。

特異なデザイナーの想いを察してくれる優しい人ばかりではありませんし、プロダクトに携わる人それぞれ「やってみたいこと」「追い求めたい質」をもっています。

交渉とは自分のアイデアを押し通すための説得ではなく、お互いが納得できる歩み寄りの対話です。「やりたいことがあるけど、なかなか実現できていない」と思っているのはデザイナーだけではありません。彼らが抱えている課題を聞いた上でデザイナーが何を提案できるかが交渉のキモになります。

交渉のためにできること

2年前から実施している「デザインの伝え方ワークショップ」も交渉の仕方を学ぶ場として作りました。デザイナーがやってみたいという施策を相手の立場や言語に乗せてどう伝えるかを学ぶ内容にしています。他にも交渉のために気をつけておいたほうが良いことが 3 つあります。

人と課題を切り分ける

デザインが上手くいかない理由の多くは人が原因のように見えます。デザインを承認しない人、使いにくいと言う人、とにかくネガティブな人 … といった具合に人と問題を混合してしまいがちですが、真の課題は人ではないことが多々あります。

その人にしか見えていない独自の課題がありますし、うまく言葉に言い表せない方もいます。人を問題視するのではなく、人の中に潜んでいる課題を抜き出して言語化するのも交渉には欠かせません。「なぜ」と問いかけることから始めてみると良いでしょう。

データと結びつける

ビジネスサイドをはじめ、より多くの方とコミュニケーションを取りたいのであればデータと向き合う必要があります。デザインの細かいところまでデータで説明しなくて良いですが、なぜそのようなデザインにしたのかをデータを交えて説明すると説得力が増します。デザインの決め方にロジックがあると、実現するにはどうするか、調整できるところはどこか考えやすくなります。

相互利益を探すための選択肢を提示する

簡易なプロトタイプで良いので幾つか選択肢を提示した上で交渉すると、勝ち負けの会話になり難くなります。ビジュアルの精度が高い段階でこれをすると危険ですが、早期であれば可能性を模索しやすいですし、交渉する相手も早い段階から状況を知れるので安心材料になります。デザインを説明するときに、メリット・デメリットを書いているのも選択肢の中からお互いが納得できるデザインを絞りやすくするための施策です。

まとめ

専門家の視点であるべき論を語っても周りは動いてくれません。ユーザーリサーチでやるべきことが見つかったとしても、それが唯一無二の答えとは言い切れないわけです。周りが動かないから「ユーザーのことを分かっていない」「プロダクトの質が落ちていく一方だ」と嘆いても、かえって周りを遠ざけてしまいます。

デザインだけではありませんが、施策とは関わる人たちが納得した状態で進むことではじめて価値あるものになります。デザインという名の正義を翳すのも良くないですが、ただ相手が言うことを素直に受け入れることも良いわけではありません。作る仕事は多くの時間を消耗しますし、簡単なことではありませんが、作ることは仕事のほんの一部です。交渉が仕事の質を大きく変えることがあるので、「交渉もデザインの一部」と捉えて伝え方を工夫してみてください。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。