Girl Talk「All Day」
今やグラミーミュージシャンになった DJ Danger Mouse が火を付けたマッシュアップムーブメント。アメリカではマッシュアップを題材にしているTV番組まで登場し、すっかり市民権を得ているイメージがあります。2つかそれ以上の曲を組み合わせてまったく新しい曲を作るマッシュアップですが、372の曲をサンプルしてアルバムを作ってしまったのが Girl Talk の 5 つ目のアルバム「All Day」です。単純計算で 1 分間に 6 つのサンプルがある計算になります。
最新のポップソングから70年代のヘビーメタルまで様々な曲が「ありえない!」と思いつつもきちんと曲として成り立っています。どれが元ネタなのか分からないくらいたくさんあるわけですが、リアルタイムで紹介するサイトもあります。
アメリカにはフェアユースと呼ばれる考え方があります。フェアユースであると認められれば著作権者の許諾なしに利用できる場合があります。グレーな部分もたくさんありますし、予見できないところがありますが、この考え方が All Day をはじめとした新しいクリエイティブを生み出す原動力になっています。フェアユースという考え方が長年浸透し成熟しているアメリカ。クリエイティブコモンズという考え方がアメリカではじまったのも自然なことなのかもしれません。
DJ Danger Mouse が Jay-Z と Beatles の曲をマッシュアップした「Grey Album」もそうですが、マッシュアップもひとつのアートフォームとして捉えレーベルもミュージシャンも法的な処置を行わず黙認しています。マッシュアップで取り上げられることで元ネタがより多くのリスナーに知ってもらい購入に繋がる場合もあるからでしょう。またマッシュアップは無料配信しつつ、作品をきっかけに新たな仕事に繋げるアーティストもいます。マッシュアップは著作権のグレーな部分に踏み入れているものの、マッシュアップを中心に新たな音楽ビジネスが生み出されていることは確かです。
著作権を守ることは重要ですが、守り過ぎることでクリエイティビティを失う可能性があります。黙認はひとつのリスクではありますが、それを超えることで新たな価値がマッシュアップだけでなく元ネタの曲にも生まれるのではないでしょうか。「All Day」はマッシュアップのなかで久しぶりに最上級の体験をさせてくれるだけでなく、今の音楽の価値について改めて考えさせられました。
なお、アルバムは公式サイトから無料ダウンロードできます。MP3 か FLAC 形式を選べます。マッシュアップもここまできたかと思わせてくれる「All Day」。たくさんのサプライズを与えながら一気に1時間聴かせてくれますよ。