もう、先週の金曜日になりますが Opera が主催するイベント「Tomorrow’s Web Today」に参加してきました。Opera 共同創設者である Jon Stephenson von Tetzchner の話を聞けるということで、大変愉しみにしていました。HTML5 や CSS3 のようなキャッチーなトピックもイベントでは話されていましたが、彼がどう Web の未来をみているのかという部分に興味を引かれました。

昨年 Opera のパネルディスカッションに参加したときにも感じたことですが、Opera はどのブラウザよりも「Open Web」という思想を信じてソフトウェア開発をしているという印象があります。Tetzchner氏の話も Web はオープンであるべきという強い主張があると同時に、それに寄り添う形で Opera は開発を進めているという内容でした。

今回のTetzchner氏の話で2つのことを感じました。

ひとつは Opera の主張は共感できるものの、それを強く出していることが逆に異質なものを作り出しているという点。もうひとつは、彼等の目指している Web とはまったく反対側のほうに世界が向かっているという点です。

Operaらしくあることで生じる違和感

私は Opera を未だにディフォルトブラウザとして使ったことがありません。バージョン10から、UI が整理され、アイコンも美しくなったので魅力的な雰囲気がするものの、未だにテストで時々使う存在です。その理由として「なんとなく違う」という違和感が挙げられます。

ひとつ分かりやすい例として、Opera Mini for iPhone があります。起動もまずますですし、ページの表示速度は Safari より早く、戻る・進むボタンによる操作も快適です。Symbian OS の Opera Mini は使ったことがあったので、それと似た操作感でブラウジングが出来ます。個人的にはページ内検索がお気に入りです。よく出来ているのですが、『違う』のです。iPhone アプリなのにも関わらず iPhone アプリを操作していない雰囲気がしてしまいます。気になった部分を幾つか挙げると以下のとおり:

  • 時計などが表示されているバーをタップしてもページ上に戻らない (タイトルバーで戻る)
  • ブラウザ下に配置されているメニューが他と違う
  • タップ以外のジェスチャーを使ったページズームが出来ない
  • テキストの選択・コピー・貼付けの UI が独自仕様
  • リンクをクリックしても App Store が立ち上がらない
  • ホームボタンとして Web ページを追加出来ない

Opera Mini for iPhone は、操作感や装いがいかにも Opera Mini らしいわけですが、iPhone らしくはないといったところでしょうか。今まで Opera Mini を使っていた方が同じ操作感で iPhone 上で Opera を使いたいという場合には最適なのですが、iPhone アプリとしてみたときにどうしても違和感を感じてしまうわけです。実はこれと同様なことはデスクトップアプリのほうでもあって、Mac OS X を立ち上げているのに Opera のウィンドウだけが別の世界感を持っています。それはそれで良いという方もいると思いますが、それが私の中で「なんとなく違う」という思いになってしまうのでしょう。

どの機器からでも Web へアクセスしてもらうためのソフトウェアを提供するという目的は Opera Mini は達成しているでしょう。実際たくさんのデバイスでも使えますし、どのデバイスで操作してもだいたい同じです。しかし、利用者が使っている機器やソフトウェアに最適化された形で提供しているのかといえば少々疑問です。オープンな Web へアクセスするわけですから、どの機器からでも一定の使い心地を提供することが重要だとという考えからかもしれません。

閉ざされた世界へ向かう Web アプリ達

どこからアクセスしても操作が同じなのが Web アプリケーションの魅力です。例えば Windows でも Mac からでも Gmail はアクセス出来ますし、どちらからアクセスしてもボタンが変わることもありませんし、使い心地は同じです。いつでも何処でも自分のデータにアクセス出来る Web アプリケーションは素晴らしいですが、デスクトップアプリケーションではありません。たとえ Fluid のようなツールを使って単体アプリケーションのように見立てても「なんとなく違う」わけです。そういった意味では Opera と同様の課題を Web アプリケーションは持っているわけです。

Gmail が出始めてからしばらくは Mailplane というアプリケーションから利用していました。その理由として大きかったのが、アドレス帳や iPhoto といった他のアプリケーションの連携と、Finder から直接ドラッグ&ドロップすればファイルを添付出来るという手軽さ(デスクトップアプリらしい振る舞い)があります。今年になって公式にドラッグ&ドロップ機能が実装されたので、またひとつ Mailplane を使う理由は減ったかもしれません。Gmail の例だけでなく、デスクトップと Web アプリのギャップは徐々に狭まっているとはいうものの、見た目を含めた違和感をどう埋めて行くのかが今後の課題といえます。

この課題の解決方法として Web アプリケーションの『アプリ化』があります。Webブラウザひとつあれば、何でも出来ると言われていた時代は久しいもので、今や様々な Web アプリケーションが携帯電話・スマートフォン向けに最適化され出荷されています。たとえ、Web アプリケーションをホームに追加してもらったとしても Opera Mini にみるような違和感が残るわけですから、デバイス/OSの機能を活用したアプリケーションを開発したほうが良いという考えです。

Tetzchner氏も公演中に危惧していたことですが、近年みるモバイルデバイスの囲い込みエコシステムは Web とは相反する姿でしょう。iPhone はロックがかかっていて、Android はそうではないからこちらのほうが良いという考えがあると思いますが、いずれも閉じたエコシステムの中アプリケーションが動いていたりマネタイズモデルがあるわけですから同じようなものです。Apple はオープンスタンダードといわれている HTML5 を積極的に使うと主張しているものの、彼等が見ているものは Web アプリケーションというより、閉ざされた iPhone アプリの世界です。そして、その閉ざされた世界へ Web アプリケーションは次々と流れています。

メリットがたくさんあるのは分かります。利用者は自分が馴染んでいる使い心地で、すぐにアプリケーションを利用したいですし、それを当然と考えているでしょう。それぞれのデバイスのために開発する手間があるものの、特定のデバイスならではの機能を最大限に生かすことで表現豊かなアプリケーション開発を可能にするという意味では開発者にもメリットがあります。特にブラウザ上よりさらに近い場所へサービスを提供出来るという点と、閉じたエコシステムなので課金が楽に行えるというメリットも見逃せません。多くの方がオープンな Web より閉じた世界へ注目するのは近年の流れからすると当然のことといえるでしょう。

人々が求めているわけですから、良いことなのかもしれません。データがオープンな仕様でアクセス出来れば、作られるアプリとそれを取り巻く世界は閉じていても良いのかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。

オープンな Web は何が提供できるだろう

高機能で優れた Web アプリケーションが次々と登場する前は、デスクトップアプリケーションや特定の Web ブラウザに特化したアプリケーションばかりでした。オープンな世界とクローズな世界は振り子のように常にゆれ動いているのかもしれません。しかし CSS3 や HTML5 を利用するという技術的かつ漠然な提案では利用者は納得することはないでしょう。では、今後またオープンな Web アプリケーションには何が求められるのでしょうか。

ひとつ考えられるのが、HTML による GUI 生成の強化だと思います。今でもボタンやプルダウンといったフォーム要素 OS ごとに合わせて生成されていますが、さらに多くの要素が OS らしく再現出来るようになって欲しいですね。メニューもせっせと CSS で記述するのではなく、nav要素の内容が自動的に OS に合わせた見た目と使い心地を再現するというのもひとつの手段です。すべての見た目を CSS によって解決するのではなく、OS に任せることが出来る度合いがもっと増えて欲しいです。

また、人によって Web アプリケーションとデスクトップアプリケーションを織り交ぜて使っているわけですから、Web アプリケーションがデスクトップアプリケーションへアクセス出来る仕組みも欲しいですね。Web アプリケーション同士は API で繋がっていますが、アプリケーションであればどんな種類でも必要に応じて繋がると、ますます両者の境はあやふやになって便利になりそうです。OS 側もネイティブアプリ向けだけでなく、Web アプリが『自立』出来るような環境や機能を充実していって欲しいところです。

上記に挙げたアイデアに近いものは既に幾つかあります。また、振り子のように Web アプリケーションの時代が来るのかどうかは分かりませんが、Web に携わる仕事をしている以上、Web について時々立ち止まって考えたくなりますし、Tetzchner氏の講演はその良いキッカケを作ってくれました。