前回の「これからのWebdデザイン教育」の記事は、Facebook グループをはじめ様々な場で意見が飛び交いました。あのような記事を書いた理由は、不満をぶちまけているのではなく、書くことによってちょっとだけ考えてみる機会を皆に持って欲しかったわけです。今回は様々な意見が出てきたことを踏まえて、私のほうで感じたことを幾つかまとめていきます。

教育機関だけの問題ではない

教育の話になると、まず学校の改革・カリキュラムの見直しという教育機関へ向けた問題解決に集約してしまう傾向があります。しかし、実際のところ教育機関が今のようにスキル中心の教え方をしている理由は、そこに需要があるからという現実もあると思います。企業の募集ページをみると「○○が出来る方」というスキルセットがリストアップされているわけですし、即戦力とはそういったスキルがある方を指す場合がほとんどです。勉強会・セミナー・ブログを覗いてみても、主なトピックがスキルの話であれば、プロを目指す学生の視点でみればスキルをまず手に入れようと思っても当然でしょう。

つまり、教育機関がスキルを教えることに多くの時間を割く理由は、企業・業界が求めている人材がスキルがある人であるという雰囲気を作り出しているからではないでしょうか。前回の記事でも話しましたが、スキルは後回しにすることでもなければ、無視しても良いものでもありません。ちょっとした違いが高いスキルによって生まれることも当然あるわけです。

制作を続けていると、スキル以外の部分も Web サイト制作で重要であるということに気付きますし、今後、人・社会に目を向けることを前提とする設計が欠かせない状況になるはずです。働いている我々がそれに気付いているからこそ、学生や今でも勉強をし続けている同僚にその重要性を訴えていかなければいけません。スキルだけが人材ではないという雰囲気を業界全体で作り出すことで教育の方針も変えることが出来ると思います。

デザイン思考の前に必要なこと

スキルだけでは意味がないということで、デザインそのものの意味に立ち返るかのように、ユニークなカリキュラムが国内外で立ち上がっています。デザイン人類学(又はエスノグラフィー)を前提にした人間の行動や態度の分析。そこから考えられる仮説を職種関係なく皆でブレインストーム。プロトタイピングとユーザーテストを繰り返すプロセス。どれもデザイン思考に欠かせないアプローチですし、それを学校で学べるというのは正直羨ましい話です。基礎を学ぶという意味でこうした授業があるべきだと思いますが、それを実践する場が現状少ないところに学校というアカデミックな場と仕事をしている場のギャップを感じることがあります。

デザイン思考的なアプローチを活かせる Web サイト制作にまだ成長しきれていないのかもしれません。これは先述した「教育機関だけの問題ではない」という意見にも繋がりますが、まだデザイン思考が『必須』という状況が少ないのではないでしょうか。

より Web は人や社会と密接な関係になってきているからこそ、デザイン思考のようなアプローチは『必須』になるでしょう。しかし、確立された仕事の仕方を変えるのは難しいです。我々のように IT の最先端を追いかけている人間ですら変わるというのは難しく、面倒なことだったりします。しかし、少しずつ変えることは出来ます。

私は昨年の 11 月に UXを扱ったセミナー&ワークショップ を開催しました。そこで行われたワークショップの課題は「デザイン提案を引き出す方法」でした。 ビジュアルデザイン以外からクライアントのニーズに応えるデザイン提案(企画書)を出すためのトレーニングです。UX 的な考え方は踏まえつつも、ペルソナも作りませんでしたし、人間観察をしようとも語りませんでした。プロトタイプも作りませんでした。厳密な意味では UX でもなければ、デザイン思考を意識したプロセスでもないかもしれません。しかし、ちょっと UX を意識することで、いつもと違う企画書を書くことが出来るということを実感してもらいたかったわけです。

どの企業もそれぞれ違うワークフローをもっています。しかし、どの企業も企画書はまず書くわけです。今あるフローの中で変化を起こすことは出来ないのか?ちょっとした後押しが皆の意識を変えるきっかけになるのではないかと考えて作ったワークショップです。

デザイン思考という『理想』も大事ですが、今ある現状をどう理想へもっていくのかという戦略も同時に必要でしょうし、仕事場で当たり前の環境になれば、教え方も次第に変わると思います。

問題解決より問題発見

問題を解決する方法はたくさんありますが、問題を発見するための方法を学ぶ機会が少ないと思います。それはスキルの話をしている場合でもそうですし、もう少し抽象的な話題を取り上げている場合でもそうです。実世界では問題ははっきり見えない場合がほとんどですし、問題のようなものが見つかっても、明確にするのもまた難しいです。同じような問題に見えて実は違うこともあります。発見できたとしても、幾つかある問題にプライオリティを付けるも至難の業です。

例えば Web サイトの評価でよく使われる「使いにくい!」というフレーズ。これは何か問題があることを示してはいるものの、実際何が問題になっているのか、この言葉だけでは分かりません。ユーザーテスト、インタビュー、アクセス解析など問題を見つけ出す方法が幾つかありますが、生データからどう分析するのか、そこから問題解決への道筋をどう敷いていくのかが、問題発見力の真意。「使いやすくする10のコツ」という問題解決だけを実践しているだけでは、そのサイトに合ったソリューションの提供にはならないということです。千差万別な Web サイトであるが故に、そこに合った問題解決が必要です。だからこそ問題解決(答え)だけではなく、問題そのものを見つける能力は、デザインには欠かせない要素だと考えています。

語っていることは氷山の一角

デザインと教育は私がこうして語り始めている数十年前から語り尽くされている話題。しかし、Web がチラシ・ビルボード・CM のような一方通行メディアの代替的な役割から、多方向のコミュニケーションプラットフォームに変化・定着し始めている今だからこそ、語らなければならない時期ではないかと考えています。作っている我々は「ちょっと違うよね」「これで本当に良いのかな」という思いは、ずっとあるかと思います。考えてはいても、とりあえずうまく行っていたのが今だと思いますが、そういかなくなり始めていると思います。言い換えれば Web をデザインする人々が取り残されて、新しい何かによって置き換えられる可能性もあると思います(多少今でもそんなところはありますが)。

今の変化は CSS レイアウトになりました、HTML5 に変えました、というスキルのみでは語れませんし、ニーズに応えることも出来ません。テクノロジーの本質を活かしたデザインをするには「○○ができる」集団では難しいということです。言い換えれば、人や社会へより注目することでスキルを今よりさらに活かした形で利用者に提供できる可能性があるということです。

IDEOのような世界的有名なデザイン会社じゃなくても、デザインを実践している個人・企業は国内外にたくさんあることも事実。しかしもっと増えて欲しいですし、もっと増えるには教育は欠かせないと思います。2回の記事で幾つかの問題提示と提案はしましたが、カバーしきれていない部分もありますし、別案・批評されるべき部分もあるでしょう。Webの良いところは特定の団体に属さなくても情報共有されますし、大御所・新人関係なく対等な立場で情報交換ができるところ。この Web にしかない良いところを活かして、Webデザインの教育は他とは違う成長・進化することを期待しています。