書籍「デザインシステムの育て方」とわたし。

デザイナーや開発者のための『道具』を作るだけでなく、直接制作に関わらない人たちや、組織構造、判断基準といった根深い部分と向き合うことになります。

書籍「デザインシステムの育て方」とわたし。

2024年08月28日「デザインシステムの育て方(原題 Design That Scales)」が発売されました。私はこの書籍の監訳と序文の執筆を担当しました。

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私が初めてデザインシステムについて登壇したのは、2016年に名古屋で開催されたコミュニティイベント WCAN でした。別名「赤本」とも呼ばれる「デジタルプロダクトのためのデザインシステム実践ガイド」が発売されたのは2018年。そのため、当時は「デザインシステム」という言葉自体、まだ耳にしたことがない方も多かったかもしれません。私の登壇では、Material DesignBootstrap の事例などを交えながら、デザインでも運用・改善のための仕組みを作るべきだと説いていました。当時、人気のUIデザインアプリといえばSketchでしたが、プラグインなしではアセット管理が難しく、概念を理解しても実践が難しいと感じた方もいたと思います。

他にも、UIインベントリーを一緒に作るワークショップを何度か開催し、ワークを通じて一貫性の重要性と実践の難しさを体感し、一緒に対策を考える時間を設けていました。制作案件として仕事を受けて納品するスタイルを止め、事業会社のメンバーたちと共に働くようになったことで、以前より運用の課題が浮き彫りになってきました。その際、認識共有とワークフローの最適化に繋がる可能性を感じたデザインシステムに、私は大変興味を持ちました。

これまでスタートアップから大規模組織まで、さまざまな規模の組織でデザインシステムに関わってきましたが、簡単にはいかないことが見えてきました。デザインシステムのメリットを説明する際、「効率化」や「一貫性の向上」といったキーワードがよく使われますが、それらはUIデザインや実装の範囲で語られることが多いです。しかし実際には、事業全体という大きな視点から「効率化」や「一貫性」を考えなければならず、制作サイドのメリットが他の部門にとっては非効率になることもあります。

また、「一貫性」の基準がそもそも存在しないことも少なくありません。ドキュメントを残す習慣がない組織では、なぜ一貫性のないデザインが生まれたのかという原因を突き止めることも難しく、現状を自分たちの言葉で紐解くところから始める必要があります。そうしたデザインの明文化がなされていない状態でデザインシステムのガイドラインを作成すると、当たり障りのない説明が並ぶだけの辞書のようなものになってしまいます。

こうしたデザインシステム運用経験を通じて、数年にわたってデザインシステムの運用に関するコンテンツ配信をしていきました。

いずれも他の記事に比べるとアクセス数はそれほど多くありません。そもそもデザインシステムの運用に携わっている方が少ないですし、「とりあえずUIライブラリを作ってみたい」という方にとってはピンと来ない内容だったり、自分の責務ではないと考えている場合もあると思います。

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ちなみに、Figmaなどを使ってUIライブラリだけ作り始めるのは、いくつかある有効なアプローチのひとつであり、間違っているわけではありません。しかし、UIライブラリで得られる具体的な効果の定義や、今後どのように周りに推進していくかといった計画とセットで進めることが重要です。

悩んでいる人はいてもその数が少ないため、書籍化は難しいと考えていたときに出会ったのが「Design That Scales」でした。これまで自分が伝えていたことが、多くの事例を交えて分かりやすく解説されており、自分の考えが間違っていないことを再確認できました。同時に、デザインシステムの運用に関わる課題の解像度もさらに高まりました。

似たような内容を記事で配信していたり原著を読んでいた経緯もあったため、BNN, Inc.から監訳の依頼が来たときは、メールの全文を読む前に「やります」と返信しました。勢いあまって序文の文字数もだいぶ多かったですが、編集の方にうまく調整していただきました(ありがとうございます)。

この書籍にはデザインシステムの「作り方」は一切書かれていません。むしろ、作る前にしっかりと計画を立てましょうというメッセージが見え隠れしており、「とりあえず作ってみよう」という軽いノリを否定しているかのようです。作るためのモチベーションは非常に重要で、それがなければ始めることすらできませんが、多大な投資が必要なデザインシステムを無駄にしないためにも、「なぜ作るのか」を明確にし、現場で働く人たちの悩みや展望に耳を傾けながら進める必要があります。

デザインシステムを「育てる」ということは、デザイナーや開発者のための『道具』を作るだけでなく、PdMなど直接制作に関わらない人たちや、組織構造、判断基準といった根深い部分と向き合うことになります。これは決して簡単なことではなく、非常に難易度が高いため、停滞してしまうデザインシステムも少なくありません。それでも育てていきたいと考えている方にとって、「デザインシステムの育て方 継続的な進化と改善のためのアプローチ」は、多くのヒントが詰まった一冊ですので、ぜひ手に取ってみてください。

また、デザインシステムの育て方の相談がある方はぜひお問い合わせください✉️

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。